ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『白衣と人妻』(1998) 小林政広:脚本 上野俊哉:監督

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 この作品は脚本の小林政広と監督の上野俊哉のコンビで、今は廃盤のDVDタイトルは『白衣と人妻 したがる兄嫁』。出演女優は葉月螢と佐々木ユメカ。

 まずはここで出演している葉月螢さんに関してあれこれ書いておきたいのだけれども、わたしは彼女がこうして「ピンク映画の名女優」となる前に、あの「水族館劇場」の舞台で、彼女のことは知っていたのだ。彼女は大学在籍中に「水族館劇場」の美術スタッフとして劇団に関わるのだけれども、ま、かわいいですからね~、自然と女優として舞台に立たれるようになったのでしょう。わたしはその「水族館劇場」のファンでもあり、まずは舞台の葉月螢さんのファンになった。それが瀬々敬久監督の『未亡人 喪服の悶え』で映画デビューされたということ。このあたりのことは日本語のサイトではまるで書かれていなくって、なんと英語版Wikipediaに「Hotaru Hazuki」という単独項があり、そこに書かれている。つまり、日本人よりも英語圏の人の方が葉月螢に詳しかったりするわけだ。
 わたしは「ピンク映画」の情報には疎かったので、彼女が次々と出演されたピンク映画のことは知らなかったけれども、たしか1997年の『京極真珠』というアート映画っぽい作品で初めて、スクリーンの彼女を観たのだった。それでそのあとに観たのが翌年の、井土紀州監督のおそらくは傑作、『百年の絶唱』だったと思う。そのうちに「水族館劇場」も辞めてしまわれ、どうやらピンク映画にもあまり出演しなくなられたらしいが、3~4年前に『キスして。』という作品を自ら監督され主演、その上映会にわたしもうかがい、彼女のサインをいただいたのだった。
 彼女の出演した多くのピンク映画のいくつかを観るようになったのは最近のことで、その彼女の、のほほんとした笑顔を画面で観るだけで、わたしは癒されるのだった。「そこにいるだけで映画になる女優」とも評されるらしいが、まさにその通りだろうというのが、一ファンであるわたしの感想である。

 さてこの作品のことを書かなければ。
 東京で暮らしていて婚約していた彼女にフラれた「弟」は、その傷癒えず東京から母と兄夫婦の暮らす田舎に帰って来る。高圧的に弟に対する「兄」は「お前は何で帰って来たのだ」とか手厳しい。実は母がガンで入院していて、手術を終えたばかりだという。その実家での兄弟、そして兄の妻との三人の食事のシーンがいい。けっこうローアングルで、その切り返しとか役者の演技とか、小津作品のパロディをやっているのではないかと思うのだが、ここでも葉月螢のぽよ~んとした演技やセリフまわしが、どこか遠くの原節子を思わせられておかしい。
 実は兄は母の入院している病院の看護婦(佐々木ユメカ)と不倫していて、「妻と別れて彼女と一緒になるつもりだ」という。しかし弟も成り行きからその看護婦とバーで飲み、彼女の車の中でセックスするのである。翌日、兄は弟に「オレが車の中で看護婦とセックスするところを見にこい」という。いちおう見にいった弟だが、その場を逃げて家に帰る。そうすると兄嫁が全裸で弟を迎え、「抱いて!」と迫るのである。弟は逃げてしまう。
 兄弟はいろいろとケンカばかりしているけれども、実は仲がいいのかもしれない。けっきょく兄も看護婦と別れ、病院の廊下で兄嫁をはさんでバカな会話をする。兄が弟に「女には2種類あってな、多情な女とそうじゃない女とだ。あの看護婦は多情だが嫁はそうじゃない。やはりいっしょに暮らすのはそうじゃない方だな」なんて言っている。兄のバカな独白がつづき、兄嫁は「トイレ行ってくる」とその場を立ち去って病院を出る。そこでその看護婦とすれ違い、あいさつをするが、兄嫁は看護婦に「2階にバカ兄弟がいるから、わたし家出るからって言っといて。女は2種類っていうけれども、1種類に決まってるじゃないね」と言って去っていく。2階ではバカ兄弟がまだバカな会話をつづけているのだった。

 「都会」で暮らして女にフラれた弟と、「田舎」で妻と暮らしながら不倫する兄という対比はあるのだけれども、けっきょく「女が欲しい」という欲望に囚われていることは同じであるし、「居酒屋」、「バー」と、田舎も都会と変わらない環境だし、まあ都会でいえば「ラブホテル」がないから、田舎では「車」ということになるのか。
 この「したがる兄嫁」というかバカ兄弟シリーズは、まだまだ3~4本撮られているらしい。