ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『反撥』(1965) ロマン・ポランスキー:脚本・監督

 「フォビア」を描いた傑作映画。この場合は「男性嫌悪」というか、嫌悪を超えて「性的」なものへの畏れ、嫌悪みたいなものでもあるだろう。原題の「Repulsion」というのも、「反撥」というよりも一般に「嫌悪」という意味合いが強いようにも思えるし。

 主人公のキャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は姉とアパートで同居しているが、その姉はこのところ、恋人である既婚の男をしょっちゅうアパートに連れて来て宿泊させる。夜中には姉のセックスの「あえぎ声」も聞こえて来るし、洗面所には男の歯ブラシや剃刀が起きっぱなしにされ、神経質で潔癖症のキャロルの嫌悪感をつのらせる。
 キャロルの勤め先がまた、「美容サロン」ということで、女性ばかりの職場であることが、キャロルの男性への耐性をなくさせているかもしれない。キャロルにはコリンというボーイフレンドもいるのだが、コリンはキャロルとの仲を進展させるのに性急すぎるようでもある。そんな中、キャロルの姉は愛人と十日間のイタリア旅行に出かけ、アパートにはキャロルひとりになる。
 キャロルは部屋の中に男が入り込んで来る妄想に囚われるし、部屋の壁にヒビが入るさまを幻視する。勤め先も欠勤するようになるキャロルは、すっかりアパートに閉じこもる生活を送るようになっていて、電話のコードもけっきょくは引き抜いてしまう。そんなとき、約束を守らないキャロルに会うため、コリンがアパートを訪ねて来るのだった。

 演出として、まったく説明的な描写を省き、ただただキャロルの行動、しぐさ、彼女の抱く「妄想」のみで進行して行くのが効果的というか、つまりはこの映画はキャロルの「一人称映画」と言っていいのだと思う(キャロルのセリフも極端に少ない)。そんなキャロルのさまを観察するのは、映画の観客の視線のみだろう。
 勤め先の上司からも「その髪は何とかしなさい」と言われるような、ひたいを覆って目も半分隠れてしまうようなボサボサの髪、歩きながら執拗に鼻先をこすりつけるような、「偏執的な動作」が続く。彼女が明らかに精神を病んでしまってからは、アパートの壁から手が伸びて彼女をつかもうとするなど、ちょっとシュルレアリスム的な描写もされる。
 妄想の中で、ベッドに寝ているキャロルを妄想の男が襲うのだけれども、その後ろから彼女を押さえつけるさまの映像が、いかにも「レイプ」という感じもして生々しい。リアルな空気をたたえた「サイコ映画」の原点ではないかと思える。

 音楽はまたもモダン・ジャズで、チコ・ハミルトンが担当しているが、ドラムを多用した音楽は、そこまでにこの映画にマッチしていないようには思えた。