ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『昼顔』(1967) ジョセフ・ケッセル:原作 ジャン=クロード・カリエール、ルイス・ブニュエル:脚本 ルイス・ブニュエル:監督

 今まで見逃がしていた「名作」。原作のジョセフ・ケッセルの作品はいろいろと映画化されているようで、『うたかたの恋』、『将軍たちの夜』、『影の軍隊』、『サン・スーシの女』などの名作が並んでいるわけだが、わたしはこれらの映画はどれも観ていないし、本を読んだこともない。

 ヒロインのセヴリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は裕福な医師の夫ピエール(ジャン・ソレル)と何ら不満のないはずの生活を送っていたけれども、夜な夜な自分が鞭打たれたり、泥を投げつけられるという嗜虐的妄想に囚われている。
 セヴリーヌは知人のユッソン(ミシェル・ピコリ)から「昼間に娼婦をつとめるという貴婦人」の話を聞き、こらえきれずにその娼館へ行き、午後の2時から5時までの時間、そこで娼婦となるのである。
 「昼顔」という名で売れっ子になるセヴリーヌだが、粗暴なヤクザ男のマルセル(ピエール・クレマンティ)が店に来て、セヴリーヌのとりこになる。ユッソンに「娼館で働くこと」を知られ、ついに娼館をやめるのだが、マルセルはセヴリーヌの自宅を探り当てて彼女の屋敷に踏み込む。夫のピエールがマルセルに撃たれ、ほぼ半身不随となってしまうのだが‥‥。

 彼女の嗜虐的夢(妄想)の中にはいつも馬車が登場するのだが、ラストには彼女の屋敷の窓の外から、馬車の走る鈴の音が聞こえて来る。

 セヴリーヌはマゾヒストとはいえ、娼館での描写でそのような被虐的な描写があるわけではない。もしももっと客の男たちが暴力的であれば、それこそ先に観た『ラストナイト・イン・ソーホー』のようなことになっていただろうが、彼女の中では「毎日午後には<娼婦>となる」という「変身」で充足しきっているようではある。
 そういう中では、マルセルこそは「サディスト」的性格として、セヴリーヌも彼に惹かれるものがあったようだ。

 夢の中で夫のピエールはセヴリーヌを「不感症」というが、これはあくまでセヴリーヌの妄想で、夫婦の性生活で問題があるのは夫の方なのではないか、ともわたしには思われる。このあとに娼婦となったセヴリーヌは充分に「快楽」を味わっていたようだったし、娼婦になったことで「不感症」が治癒されたとも考えにくい。このあとにピエールが「子どもが欲しい」と言ったとき、セヴリーヌは当惑した表情を浮かべるわけだが、つまりはセヴリーヌのセックスの相手として、夫のピエールはセヴリーヌを満足させ得ないのではないか。それでセヴリーヌはピエールとの性生活を拒否してるのではないかとも思える(この解釈はまだ不確かだけれども)。

 ラストは映画のファースト・シーンにつながるとも解釈出来るけれども、この映画もまた『ラストナイト・イン・ソーホー』のように、ある女性の「妄想」をこそ描いたもので、「どこまでが<現実>で、どこからが<妄想>なのか?」ということは、謎のままなのかもしれない。