ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち』(2014) エドガー・アラン・ポー「タール博士とフェザー教授の療法」:原作 ブラッド・アンダーソン:監督

 舞台は19世紀末のイギリス。まずは精神科医らの公開講義の席に、ヒステリー患者であるイライザ・グレーヴス(ケイト・ベッキンセイル)が連れて来られ、その症状がまるで「見世物」のように提示される。
 数年後(1899年らしい)、場所は変わって、深い森を越えたところにある孤立した精神病棟を、エドワード(ジム・スタージェス)という精神科医が単独で訪れる。
 病棟の院長はラムという男(ベン・キングスレー演じる)で、それまでの「抑圧的」な監禁病棟のあり方を改め、患者の人格を尊重する治療体制であるようにみえる。ここにイライザ・グレーヴスも収容されてはいるのだけれども、監禁されることもなく、病棟のスタッフのような「自由」な生活をしている。ただ、イライザの夫こそが彼女の「ヒステリー症状」の元凶ではあるのだけれども、その夫が彼女を連れ戻そうとしているがため、病棟としては彼女を守るためにも収容しつづけているのだという。
 しばらく滞在をつづけるエドワードがあるとき、道を間違えて地下の閉鎖病棟に迷い込むのだけれども、そこにはこの病棟の前の院長であったソルト(マイケル・ケイン)や看護士ら、以前のスタッフが閉じ込められていたのだった。
 そこでエドワードが知ったのは、今の院長であるラムは以前はここに収容されていた「患者」だということで、一種の「クーデター」で「医師」と「患者」とが逆転したのだということだ。

 ソルト氏はエドワードとの対話では温和で聡明な人物なのだが、実のところ、彼の精神疾患への治療法は「患者に水をぶっかける」とか、まさに19世紀的な、精神疾患への無理解を基にした治療法だったわけだ。
 それに対して今の院長のラム氏の治療法には「20世紀」的な進化も見られるのだけれども、逆に20世紀的展開として、「電気ショック療法」などが行われてしまうわけだ。

 ちょうどカレンダーは1899年12月の終わりとなり、新しい「ミレニアム」を迎える盛大なパーティーがこの病棟で行われる。
 見ていても、ソルト旧院長の考える、まさに「19世紀的」精神疾患への治療と、ラム現院長の行なう「20世紀的」治療法との衝突というところなのだけれども、この21世紀からみるとどちらにも「非人道的」なポイントがあるのだ。そういう視点はけっこう興味深くも面白い。
 わたしはエドガー・ポーによる原作のことをほとんど記憶していないのだけれども、そういう「前の患者が病棟を乗っ取り、前の医師と立場を逆転させる」というのはその原作にあるようだ。しかしそれ以外は、この映画はそのポーの原作とは共通点はないようだ。

 終盤には大きな展開があり、まあ「大きなどんでん返し」なわけだけれども、そういう「ソルト前院長」、「ラム現院長」のことを考えると、「そりゃあそういうことだよね」なのだけれども、まったりと見ていたわたしはすっかり騙されていて、けっこう「えええええ!」と驚いたのだった。
 さいごにはソルト氏とラム氏も「おともだち」になったのか、いっしょにチェスに興じるシーンは良かったし、終盤のベン・キングスレーの「挙動不審」の演技も良かった。

 あと、現病棟のスタッフのひとりが、「これはデヴィッド・シューリスなんじゃないか?」と思ったらその通りだった。まあ「主演」のケイト・ベッキンセイルはそこまでに「主演」っぽくもなかったけれども、けっこう知名度の高い有能な俳優らの集結している、そんな役者らの演技を見ていても楽しめる作品だったと思う。