ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『愛の嵐』(1974) リリアーナ・カヴァーニ:脚本・監督

愛の嵐 [DVD]

愛の嵐 [DVD]

  • 発売日: 2013/08/05
  • メディア: DVD

 舞台は1957年の冬のウィーン、十数年ぶりに再会する男女の異様な愛がひとつのテーマなんだけれども、そういう愛欲劇の背景に時代のミステリーが迫ってくる。そのようなミステリー的な展開と、男女の過去の出会いと現在の「愛」とがうまく絡まり、さらにナチス時代の記憶と「愛」の記憶とが交錯する。

 男と女にとっては、「過去」はいかにそれが異様であれ、現在の愛の源流となった共有すべき記憶だけれども、ふたり以外の人々にとっては、それがナチスの残党であろうとも「反ナチス」であろうとも、「封印すべき」過去なのだ。
 そもそもが「異様」だった時代、男と女との愛のかたちも、倒錯的、背徳的な色彩を帯びてはいたわけだけれども、1957年の時制でふたりが追われる立場になると、また違ったかたちでの「異様さ」に染められる。ふたりの周囲の人物は総じて皆、ふたりを追い詰める側に立ってしまい、つまりふたりの生きる世界はこの世に非ざるところになってしまうだろう。

 男はウィーンのホテルの夜勤なのだが、「夜勤」というのは戦争が終わったあと、彼が陽の光に耐えられなくなったからという。そういうところからも、ラストの場面が「夜明け」のときだったことも、象徴的ではあった。
 (日本版Wikipediaのこの映画『愛の嵐』の項には「背景としてのオーストリア現代史」というのが書かれていて、とても参考になる。日本版Wikipediaには珍しいことだ。)