ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『情事』(1960) ミケランジェロ・アントニオーニ:脚本・監督

 このところ偶然に、60年代の漢字2文字タイトルの映画を『軽蔑』『反撥』と続けて観てしまったが、それに続いての「漢字2文字タイトル映画」。

 アントニオーニ監督の「愛の不毛」三部作の第一作ということで、モニカ・ヴィッティの初主演作でもある。原題「L'avventura」は「冒険」という意味(これも漢字2文字だが)。

 わたしは過去に観ていた作品だけれども、まるでストーリー展開を記憶していなくって、「ある島に観光に来たグループから女性アンナ(レア・マッサリ)がひとり行方不明になり、アンナの恋人のサンドロ(ガブリエル・フェルゼッティ)とアンナの友人のクラウディア(モニカ・ヴィッティ)が島に残り、不明になったアンナを探し、そのうちにサンドロとクラウディアは愛し合うようになってしまう」という大まかなストーリーはわかっていたが、その二人は最初から最後まで、訪れた島の中だけで不明の女性を探すのだと思っていた。つまり、導入部しか記憶に残っていなかった。

 ネットでこの作品のことを調べると「公開当時、観客の期待を裏切る<腑に落ちない>結末で話題となり、行方不明のままのアンナに出頭を呼びかける新聞記事も出たという」(Wikipediaより)と書かれていて、アンナがその後どうなったのか描かれなかったことに不満、疑問が殺到したらしいし、逆にそういうところが評価されたのか、「1960年のカンヌ国際映画祭で審査員賞 (新しい映画言語の探求に対する賞)を受賞した」ということ。
 この映画から60年の時を経て、以後映画話法も豊富になり、今観てもそのポイントで「アンナはどうなってしまったのか?」とはそこまでに思わなくなってしまっている。だってこの映画の主題は「サンドロとクラウディアのその後」を描くことにあり、「アンナの失踪」はサンドロとクラウディアを接近させる契機に過ぎないし、そもそもサンドロもクラウディアもいつしか、アンナのことはどうでもよくなってしまうわけだろう。

 というか、アンナが消えたのはサンドロから別れるためだったのだろうと推測すれば、「なぜだろう」という疑問が残ることになり、その「疑問」の答えは、以降のサンドロとクラウディアとの関係の中にも隠されていることだろう。
 アンナ失踪以降もアンナの影はくっきり描かれているところもあり、特にクラウディアは「アンナの存在」になり代わるようでもある。それはもちろん、クラウディアがアンナの着ていた服を着ることに端的にあらわれていると思うし、そこに当初は拒否していたサンドロを受け入れる心理も読み取れるのだろうか。

 印象的だったのは、二人が教会の上の鐘楼に上がったときにとつぜん明るい表情を見せるクラウディアで、この鐘楼から響く鐘の音は何をあらわしていたのだろうかと思う。
 サンドロはアンナを探しながらも早い段階からクラウディアを求め、それはサンドロの終盤の行動からもサンドロの「女性に対する習癖」とも受け止められ、「しょ~がない男だ」という感想を一般に生むことだろう。しかしこの映画は、そんなサンドロの人間性を批判するような映画ではなく、そんなサンドロを受け入れたクラウディアと合わせての「ふたりの問題」として描いているのだろうと思う。そこに、そう言ってしまえば「愛の不毛」ということが浮かび上がって来る。