ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ブーベの恋人』(1963) ルイジ・コメンチーニ:監督

ブーベの恋人  【HDリマスター版】 [DVD]

ブーベの恋人 【HDリマスター版】 [DVD]

  • 発売日: 2017/05/21
  • メディア: DVD

 この映画が公開されたのはわたしがまだ小学生の頃だったと思うのだが、とにかくこの映画の、カルロ・ルスティケッリによる主題曲は当時日本で大ヒットした。ザ・ピーナッツなどがこの曲に日本語の歌詞をつけて歌って、テレビやラジオでしょっちゅうこの曲が聴かれたのだった。それは映画の方だってヒットしたと思うのだけれども、まあ小学生の見るような映画ではないから、わたしはそのあたりのことは記憶にない。

 そんな、主題曲だけを知っていた映画を、ついに観てしまった。主演は当時だって大スターだったろうクラウディア・カルディナーレと、『ウエスト・サイド物語』でもって主演のリチャード・ベイマーなんかよりはるかに人気を得ていたジョージ・チャキリスの二人。監督はルイジ・コメンチーニという人だが、本来コメディー映画を撮ることの多かった監督のようであるが、ここでは「ネオリアリズモ」のダイレクトな影響下でこの作品を取っている。この『ブーベの恋人』には、イタリアでベストセラーになった、カルロ・カッソーラという人による原作があったようだ。

 さいしょにつまらないことを書いておくが、画面にジョージ・チャキリスが登場したとたん、つい、「なんだかバービー人形の男性版みたいだな」とか思ってしまった。それでそう思ってしまうと、クラウディア・カルディナーレなんかもそのまんまバービー人形に見えてしまってヤバかった。

 いや、そういうことではなく、この映画はムッソリーニ以後のイタリアの戦後の状況を知ることが出来て、とっても勉強になった映画だった。
 映画は1944年の夏、連合軍がイタリアに進出し、イタリア王国が崩壊しようとする時代。ヒロインのマーラ(クラウディア・カルディナーレ)の片田舎の家に、パルチザンのブーベ(ジョージ・チャキリス)が訪れ、やはりパルチザンで活動したマーラの兄の死を伝える。マーラはこのブーベとの出会いをきっかけに彼と交際するようになり、パルチザンにシンパシーを持つマーラの父はブーベにマーラとの婚約を認める。
 しかし、ブーベはその後体制派の准尉と元パルチザンらとの抗争に巻き込まれ、准尉はブーベの仲間が射殺し、ブーベはその准尉の息子を撃ち殺してしまう。警察に追われる身となったブーベはなかなかマーラに会えなくなり、そのあいだにマーラはステファーノという男と知り合ったりする。
 ブーベは元パルチザン仲間の助言でユーゴスラビアに逃亡していたが、ユーゴ政府に捕らえられてイタリアに送還され、裁判となる。何もユーゴに逃亡しなくても、そのまま自首していればその後の情勢の変化で恩赦されていたはずだというブーベだが、裁判の結果懲役十四年となる。
 マーラは二週間ごとにブーベに面会に行き、映画のラストはその七年が過ぎたところ。「あと七年なんてすぐに過ぎるわ」というマーラなのだった。

 まず、マーラのことを中心にみていくと、ブーベといっしょにいるときのマーラは、まさに「ツンデレ」の女王様みたいな女性である。そのあたりは(ちょっとやさぐれた)ブーベをつなぎとめるためのマーラの戦略っぽいところもあり、これがあとで出会うめっちゃ素直な好青年、ステファーノとの交際では、とっても心づかいのやさしい女の子に変身してしまう。
 マーラのお兄さんはパルチザンだったし、お父さんもパルチザンのシンパだ。だけれどもお母さんはどっちかというと反パルチザンで、ブーベのことを気に入ってない。それはマーラの家族にとどまらず、この映画に出てくるイタリア全体が、まだ「王党派」か「共和派」かで分裂しているようでもあり、なんかそういう世相がマーラのブーベへの態度、ステファーノへの態度に(どういう風にか)反映されていたようにも思ってしまう。

 これが日本だと、つまり戦争が終わって連合軍が来たときに彼らは解放の「救世主」みたいになってしまうし、戦争のあとの日本の進路は日本国民が決めたのではなく、すべてGHQの決定によるものだった。この『ブーベの恋人』とかを観ると、今でもこうやってこの日本に「民主主義」とかがぜ~んぜん根付いていないということは、戦後日本人はいちども、自分たちの進路を自分たちで決定したことなどなかったのではないかと思ってしまう。
 この『ブーベの恋人』では、たとえ連合軍がイタリアに進出してきてもイタリアの人たちは連合軍を歓迎しない人もいるし、戦後も国民の中での「王党派」と「共和派」との争いがある。
 ブーベへの判決はひょっとしたら「公平」なものではないのかもしれないけれども、マーラはその判決に従い、十四年を待つ。つまりはそれがイタリアの決めた「進路」、だからではないだろうか。

 ストーリーの面白さもあるのだけれども、その背後にある戦中~終戦時のイタリアの進路が興味深い作品ではあり、わたしもそのあたりのことをもっと勉強してみようとは思うのだった。