ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『吉原炎上』(1987) 五社英雄:監督

吉原炎上 [DVD]

吉原炎上 [DVD]

  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: DVD

 タイトルバックに斎藤真一の絵が映されるのだけれども、この映画の原作(原案)はその斎藤真一氏の著作からなのだという。彼に瞽女(ごぜ)のことを書いた(描いた)『越後瞽女日記』などの著作があったことは知っていたが、遊郭のことも書いていたとは知らなかった。
 この映画は明治四十年から四十四年までの吉原遊郭が舞台で、その四十四年に「花魁道中」の花魁となり、すぐに身請けされて引退した紫太夫名取裕子)を主人公に、遊郭で身をひさぐ女性たちや、遊郭に通う男たちを描いた作品。ラストに遊郭は炎上し、江戸時代からの長い伝統はそこで途絶えたという(この吉原の大火は史実)。

 わたしは以前映画館のスクリーンでこの作品を観たことがあり、それなりに「面白い」とも思ったし、不満をも感じた作品だったが、久しぶりに観てもやはりだいたい同じような感想だった。

 ひとつ印象に残ったのは、これは「大部屋」というのか、遊女たちが部屋に集う中での女性ばかりでの「乱闘」騒ぎの喧騒というか、そりゃあ男衆のケンカとは違うわけで、男とは異なる「迫力」があるものだなあと(思い出してみれば、溝口健二や鈴木清純の娼婦を描いた映画にも、そういう女たちの乱闘はあったかもしれない)。あと、例の名取裕子と二宮さよ子とのからみというか、まあエロいのだけれども、そのさいごに裸電球を素手で握り割る場面には、さいしょはびっくりしたものだったな。
 それとやはり、ラストの遊郭の大火災は迫力があって(燃え過ぎ!)、もうこういう大がかりなセットをつくって、さいごにぜ~んぶ燃やしちゃうみたいな演出も、今の日本映画では不可能なことだろうなと思う。

 それで疑問に思うのは、全体に照明が明るすぎるのではないかということ。色彩設計もイマイチで、これは先日観た『四畳半襖の裏張り』の遊郭の描写の方がずっと優れていたと思う。この作品でも、終盤に根津甚八が居候する場末の遊郭の撮影、その暗さもよかったので、それは「高級遊郭」と「場末の遊郭」との差異を出したくてそうなってしまったのかもしれないが、もっと全体に暗くしてもよかっただろうとおもう。
 そして、まあひとつのクライマックスである「花魁道中」の演出というか撮影にも疑問がある。ここはもう、ただただ「絢爛豪華」というものを見せてくれないといけないのだけれども、それがカメラがいつも真正面からの撮影だけで、同じ位置のカメラからズームにしてみたり、フレームを変えてみても絵としては「単調」ではあろう。ここは2~3台のカメラを駆使して、正面からも横からも、さらには上からも撮らなくてはならないところだろう。このシーンはとにかく「残念」という印象。
 あとは登場する男たちの数が少ないというか、まあほとんど御曹司の根津甚八ひとりみたいなもので、しかもこの根津甚八名取裕子をひいきにしても、彼女をいちども抱かないのである。ただひとりフィーチャーされる男性客がそんなインポテンツみたいな男でしかないことから、この映画ではそういう「男と女」の濃厚なからみというシーンが、まるで存在しないのである。まあそういうのを目当てで観るわけでもないけれども、「遊郭」を舞台とした作品として、どこか「きれいごと」でやられてしまったな、という感想は持ってしまう(ここでも『四畳半襖の裏張り』に負ける)。

 しかし、このラストで吉原の大火の知らせを受けて、大事な「旦那様」を置いて燃え盛る吉原に戻るヒロイン、どういうことなのかちょっと理解しかねるのではあった。