今読んでいるナボコフの『賜物』とは、いっさい関係はない映画。伝説の女優、林由美香さんの最晩年の主演作なのだけれども、実は6月26日はその林由美香さんの15回忌の日なのだった。改めて追悼。
ただこの作品、その映像、演出とストーリー展開とがうまくマッチしてはいないという印象。まずはヒロインの林由美香は終盤までまったく口をきかない、しゃべらないのだけれども、例えばこれが小説とか文学作品であったならば、彼女がしゃべらないということは効果的に活かすこともできるのではないかと思うのだけれども、意外とまともなストーリー展開の中で、ヒロインがまったくしゃべらないということには違和感しかない。ヒロインがしゃべらないということは、つまりは彼女が何を考えているのかわからないということでもあるのだけれども、それは映像のつくり方では「どうでもいいこと」にも持っていけるというか、それでかまわないと思うのだが、ここまでキチンとストーリーを展開させてしまうと、「どうでもいいこと」ではすまなくなってしまう。
いくらでも「意欲的な作品」に持って行けたことだろうに、演出の凡庸さが作品を台無しにしたのではないかとも思える。美しいシーンはあったのだが、映画の、「映像」としての力が感じられなかったように思う。わたしはあまりいい作品だとは思わなかった。
それでも林由美香さんの存在感というものはあって、彼女の海辺でのシーン、風力発電機のそそり立つロケーションなどの背景もいいのだけれども、わたしには残念な作品ではあった。