ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『団地妻 奥様はゆうれい』(1996) 小林政広:脚本 サトウトシキ:監督

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 これは小林政広が主演に葉月螢を意識してアテ書きし、サトウトシキも葉月螢のための演出をしている。葉月螢を観るならこの一作だ!という作品だと思う。じっさい、「ピンクグランプリ」なるもので、この作品は「最優秀作品賞」を、葉月螢は「最優秀女優賞」を獲得したという(英語版Wikipedia「Adultery Diary: One More Time While I'm Still Wet」の項より)。
 公開時のタイトルは『不倫日記 濡れたままもう一度』で、この作品はあまり「団地妻」は関係ない。むしろ「新妻」なのではある。劇は葉月螢の「恥ずかしいことからお話ししなければなりません」とのナレーションから始まる。ここですでに、わたしは笑う。

 ヒロインの「新妻」の葉月蛍はカルチャースクールで小説を書こうと学んでいる。カルチャースクールが終わって外に出ると、講師の及川先生がそこにいて、「いっしょに帰りましょう」と言う。いちいち葉月螢のナレーションが入るのだけれども、この彼女の棒読みっぽいナレーションが見事で笑える。「及川さんは下品な人です」などというナレーションを、ここまでみごとに語れる女優さんはいないだろう。
 そんな「下品」な及川先生と新妻なのに不倫をし、そのことを知ったカルチャースクールの仲間(及川先生の彼女)から、「作家とは地獄を書くものなのだ」と教えられる。「作家に浮気はつきものなの、セオリーなの」というのである。それで葉月螢は、夫の伊藤猛に「不倫」の許可を乞うのである。
 許しを得た葉月螢は居酒屋で酔い、男に介抱される。いちいち男を誘うようなことを言いながらも、「お酒が言わせてるの」という葉月にまた笑う。それでそのあたりの植え込みの陰で「アオカン」などという展開になるのだが、過激に「絞首プレイ」などをやってしまって、葉月螢は死んでしまうのである。「こうして、わたしは死んでしまいました」と。
 夫はなんと、あの及川先生の彼女と再婚し、誰の子かわからぬ子を妊娠している。夫を愛している葉月螢は「ゆうれい」となって、夫と彼女の乗る電車に乗って夫を見守るのである。

 ‥‥ここでなぜか、ストーリーは意味不明の急展開。実は葉月螢の夫の伊藤猛と、及川先生と、葉月螢を「絞首プレイ」で殺してしまった3人はグルで、「交換殺人」をやっているのだった。これは葉月螢が伊藤猛に教えたパトリシア・ハイスミスからだというので、「こんなところにパトリシア・ハイスミスが!」と、おどろきながら笑ってしまう。
 で、次は伊藤猛が及川先生の妻を殺しに行くのだが、ゆうれいの葉月螢は夫の殺人を止めようと、夫について行くのである。アパートの3階ぐらい上にあがり、及川先生宅をノックすると、出てきた及川先生の妻はなんと、葉月螢にそっくりなのだった!(って、二役だからね)
 逃げようとする及川先生の妻と、追う伊藤猛と、「ゆうれい」の葉月螢とが入り乱れ、伊藤猛は階段からはじき飛ばされて落下、死んでしまうのだった。
 次元は変わって誰も乗っていない電車に葉月螢と伊藤猛がふたり。この異次元空間はどこか黒沢清の映画みたいだ。伊藤猛が葉月螢に、「オレを階段から突き落としたのはお前だったろう?」と聞くのだった。

 ははは、ストーリーをぜんぶ書いてしまった。葉月螢が他の人物と対話するときの、律儀な正面からの切り返しもいいし、居酒屋を出てから葉月螢が死ぬまでのノワールな展開も好きだ。しかし、やはりこの作品を支えているのは「葉月螢」であって、もう彼女がスクリーンに映り込めばそこは「葉月螢ワールド」に転換するし、彼女のナレーションが聞こえてくれば微笑まずにはいられない。
 もう(特に前半は)観ていて笑いっぱなしだったし、観終えても「このDVDが欲しい!」となってしまうのだった。

 Amazonで検索しても、もうこの作品は「廃盤」になってしまっているようだったけれども、「サトウトシキ・コレクション」というDVD3枚組が、この作品と前に観た『迷い猫』、そして『今宵かぎりは…』とのセットで今でも販売されていた。ただ、その価格が12100円というのがちょっと‥‥。まあ3階の階段から飛び降りるつもりで買ってしまってもいいのだけれども。