ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『遥か群衆を離れて』(1967) トマス・ハーディ:原作 ジョン・シュレシンジャー:監督

 わたしの「テレンス・スタンプ熱」が嵩じて購入したDVD。原作はトマス・ハーディの出世作で、1874に発表された作品。原題は「Far from the madding crowd」。舞台はイングランド南部のエセックスで、そ~んなド田舎ではないが、「都会」ではないだろう。DVDのケースには「豊かな牧羊地だった」とある。時代は19世紀後半のこと。
 この映画に関してはかなりいろいろと書きたいことがあるので、普段の「1回分」では書き終えられない気がする。だから2回に分けて書こうかと思っているのだけれども、なぜ長くなりそうかというと、まずは「この映画自体のこと」と、「この映画で使用されている音楽のこと」とを書きたいから。なぜなら、この映画にはわたしの大好きなイギリスの伝承歌(トラディショナル・ミュージック)が山ほど使われているのだから。

 それで「映画自体のこと」をまずは書きましょう。そこにも、「原作(ストーリー)のこと」、「出演者のこと」、「演出のこと」など、書くことはいろいろ。

 主人公(ヒロイン)は富裕な農家の娘、誰もが「美しい」と認めるのであろうバスシーバ・エバディーン(ジュリー・クリスティ)で、彼女をめぐる三人の男性(と一人の女性)との物語が展開して行く。
 まずは羊飼いのゲイブリエル・オーク(アラン・ベイツ)。彼はバスシーバに求婚するのだが、彼女に「その気はない」と拒絶される。しかもゲイブリエルはまぬけな牧羊犬のおかげですべての飼育していた羊を失い(もう、すっごいバカな牧羊犬で見ていてもあきれてしまうのだが)、バスシーバに雇ってもらって彼女の農場で働くことになる。
 次に近所の地主のウィリアム・ボールドウッド(ピーター・フィンチ)。農場の女たちとの雑談でウィリアムが金持ちなのに未婚で、女性にまるで興味がないと聞き、バスシーバはジョークでウィリアムに「Marry Me」とのヴァレンタインカードを送るのだ。たしかにそれまで女性に見向きもしなかったウィリアムは、そのカードを受け取って唐突にバスシードに夢中になってしまい、求婚するのである(なんてこった!)。
 そんな気もなく困惑したバスシーバはウィリアムへの返事を先延ばしするが、そんなときにこの地に赴任してきた軍人のフランク・トロイ(テレンス・スタンプ)と草原で出会い、彼に思いっきり惹かれてしまうのである(ここでバスシーバに「剣さばき」を披露するフランク、というかテレンス・スタンプ、めっちゃカッコいいというか、この部分の演出もスゴい!)。
 ‥‥むむ、なんやねん、このバスシーバという女性。多少美人だからとちやほやされていい気になっていて、けっきょく「軽薄」なんじゃないのか。でも相手がテレンス・スタンプならしゃ~ないか!
 フランクにはファニーという婚約者がいたのだが、「教会で結婚式を挙げよう」というその日に、ファニーは教会の場所を間違えて結婚式に行けず、皆の前で体裁をつぶされたフランクはファニーを棄てるのだ。ファニー、ゲイブリエルの牧羊犬並みにアホではあったのか。

 それでだな、あらすじをどこまでも書いてもしょうがないとは思うのだけれども、つまりはバスシーバはフランクと結婚するのだ。しかしフランクは実はテレンス・スタンプなわけだから、まともなわけがない。闘鶏にうつつをぬかし、嵐の夜も支配下の農民と飲み明かして収穫をわやにしてしまいそうになる(コレを救うのが「いい男」のゲイブリエルで、ポイントが上がる)。
 しかし、そんなフランクのところに困窮してひん死の状態のファニーがこっそりと訪ねてくる。フランクはファニーを「救貧院へ行け」と追い返すのだが、次の日に(まだ実はファニーを愛している)フランクが救貧院へ行ってみると、ファニーはフランクの子を出産してそのまま母子とも死んでしまっていたのだった。
 まだ人の心を持つフランクはファニーと赤子のために墓をつくり丁重に葬り、そのまま海岸へ行って衣服を脱ぎ捨て、海へと入って行くのだった‥‥。入水自殺なのか?

 海岸でフランクの脱ぎ捨てた衣服が見つかり、「おそらくはフランクは死んだのであろう」と思われる。そこであらためて、ウィリアムはバスシーバに求婚するのである。ちゃんちゃん。

 もちろん映画はここから先、「ええええええ~っ!」という展開になるのだが、そういうことはココには書かないことにしよう。みんな、このDVDを買って観るとか、原作を読むように!(実は最近、キャリー・マリガンがバスシーバを演じた新しい作品があるらしいので、そっちを観るのもいいだろう。わたしもその作品を観たいが。)

 一種の壮大な「メロドラマ」というか、けっこうみ~んなたいていは、男と女との関係の中で愚かだ。タイトルは「Far from the madding crowd」だが、この作品に登場する人物らはみんなある程度「Madding Crowd」なのではないかと思ってしまう(一人だけ自制して墜ちなかった人物もいるが)。

 ま、観終わってしまって言えば、なんといってもバスシーバの「いたずら半分」のウィリアムへのヴァレンタイン・カードがすべての元凶で、「おまえが悪いんじゃ!」とは言いたくなってしまう。そうでなければ「意味のない」事件など起きはしなかったのだ(そうするとこの作品の「ハッピーエンド」もなくなってしまうが、まあいろいろな犠牲があっての「ハッピーエンド」だから。

 わたしはここで、ピーター・フィンチはとても魅力的な演技を見せてくれていると思うのだが、あまりに「都会の貴族」然としていて、この作品ならばもうちょっと「地方の大地主」という、田舎くさい空気を出していた方がいいようには思ったが、アラン・ベイツはいい。味わい深い。そして、テレンス・スタンプは彼の持つ「俳優」としての個性の、見ごたえのある一面をここでみせてくれたのだと思う。テレンス・スタンプには若い頃の出演作がそれほどにないので、そんな中で「やさぐれながらも人情味もある」という、カッコいい造形をみせてくれたと思う。テレンス・スタンプのファンとして、彼だけを見ていても満足できる作品ではある。

 ただ、わたしはヒロインのジュリー・クリスティの役作りには疑問がないわけではない。ジュリー・クリスティは監督のジョン・シュレシンジャーの前作『ダーリング』でも主演してアカデミー主演女優賞を受賞してのこの作品主演となったのではないかと思うが、どうもこの作品では、ピーター・フィンチと同じように「都会的」すぎる造形なのではないかと思ってしまう。衣装とか髪型とか、もうちょっと「田舎」っぽい方が感情移入しやすかったようにも思うのだけれども、それはわたしが「イギリス」を理解していながゆえなのだろうか。

 わたしは、この映画についてこのあとに「その音楽」についても書こうとは思っているのだけれども、それ以外にも、この映画には「イングランドの田園風景(その他)」の美しさを堪能できる作品でもある。
 これは監督のジョン・シュレシンジャーがイギリス人であり、イギリスの風土に慣れ親しんだ人であったということもあるだろうが、それにもまして、やはりイギリス出身のニコラス・ローグによる撮影の「ほれぼれとする」美しさのことを書かずにはいられない。
 ニコラス・ローグがあの『アラビアのロレンス』(1962)で見事なまでに「砂漠」を映像に定着したように、その5年後のこの作品で、けっこう『アラビアのロレンス』での手法をまた活かしながら、こんどは「イギリスの田園風景」を美しく切り取って見せてくれた。単に「田園風景」だけでなく、ちょっとだけ登場する「坂のある街並み」の映像も心に残ったし、そして撮影技術としても、あの「闘鶏場」として使用された古い教会(だろう)の廃墟での「おおっ!」という撮影など、忘れられないものである。

 そういう情景の美しさ、そして(おそらく後に書く)印象に残る音楽、それからテレンス・スタンプの快演(アラン・ベイツも渋い!)など、170分など「あっという間」のことであり、このDVD、「わたしの愛する映画の一本」に割り込んできたのだった。

 さて、「この映画に使われている音楽」のことは日をあらためて書こうと思うけど、すっごいマニアックな内容になりそうで、公開することがためらわれます。