ワニ狩り連絡帳2

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『映画論講義』蓮實重彦:著

映画論講義

映画論講義

 2008年に東京大学出版会から刊行された本で、おそらくはその前に蓮實重彦が東大総長を務められたことからも刊行されたものではないかと思う。
 この書物は、蓮實重彦が主に21世紀に各所で行った講演の記録からなり、それぞれ一編のインタヴュー、青山真治監督との対談、そしていくつかの短いエッセイとからなるもので、講演録が基調なので平易なことば遣いになっている。つまり、読み易いし、わたしがまったく観たことのないグル・ダット監督以外は、語られている作品が観たことのない作品であっても、その監督のことを知らないわけではないからある程度想像がついたりする。
 前に読んだ『ハリウッド映画史講義 翳りの歴史のために』が、とても示唆に富んで興味深い内容だったので、「もっと蓮實重彦を読んでみたい」と選んだのがこの本だった。そして期待通り、期待以上の内容だった。

 蓮實氏の映画論、映画評というのは、たいていのジャーナリスティックな映画批評家のそれと違って、根底に「映画とは何か」という大きな問いかけがある。だから個別の映画のストーリーラインを細かく解説するようなことはせず、監督単位で「この映画監督は、映画として何を表現しようとしているのか?」ということを究明していく。その中で「何を観るべきか?」ということが語られる。

 もちろんそれぞれの映画作品にはストーリーがあり、じっさいに映画を観るときには<ストーリー>を理解することも重要だろうけれども、蓮實氏は<映像>、つまり<ショット>をこそ観るべきだという。それは当然のことで、例えば小説であれば<ストーリー>さえ理解すればいいのかというのでは、その文学史の中での作家の位置などというものはわからないだろうし、つまり小説でいえば<文体>にこそ注目しろ、ということに匹敵することだろう。
 映画でいえば例えば『2001年宇宙の旅』のストーリーを解説され、「そうか、そういうストーリーの映画なのか!」と解ったつもりになっても、現実にはその映画のことはほとんど何も理解出来ていない。まあゴダールの映画などでもそうだけれども、「映画とは何か」という視点を見失いように観ていれば、自ずから<ショット>に注視せざるを得なくなる。

 この本は世界の様々な映画作家のことが語られる本だけれども、特に第7章の<映画史総論>的な文章は刺激的で、エンターテインメントでありながらもその歴史を発展させている<映画>という表現を受け止める上で、忘れてはならない視点だろう。
 個別にその内容に立ち入って書いてみたい誘惑にも駆られてしまうけれども、それではあまりに長くなってしまうのでこのあたりで。