ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ファンタスティック Mr.FOX』(2009) ロアルド・ダール:原作 ウェス・アンダーソン:監督

 原作はロアルド・ダールロアルド・ダールといえば『チャーリーとチョコレート工場』の原作者で、その奇妙な味わいの作品には日本でもファンが多い。この『ファンタスティック Mr.FOX』も、かつては田村隆一訳で出ていたし、今では柳瀬尚紀の訳で読めるようだ(「父さんギツネバンザイ」)。
 『チャーリーとチョコレート工場』といえば監督はティム・バートンが監督なのだけれど、ティム・バートンも『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』などのストップモーション・アニメーションを撮っていて、どうもその作家性とか考えても、このウェス・アンダーソンティム・バートンとの親和性、ということが気になったりもする。

 だいたいわたしは「なぜウェス・アンダーソンストップモーション・アニメーションを撮ろうとしたのか?」ということが気になっていて、それは前に彼の『犬ヶ島』を観てもよくわからなかったのだけれども、この日こうやって『ファンタスティック Mr.FOX』を観てみると、「なんとなく少し」わかった気がした。
 それはこうやってスタディオの中で町並みや風景を自分の思うとおりにつくれれば、いわゆる「ウェス・アンダーソン的世界」というものを自在に操れる、ということがあるだろう。それは例えば彼の「シンメトリー的風景」への偏愛であったり、邪魔モノもなくカメラの平行移動がやってのけられるということでもあるだろう。そう考えると、彼の最新作の『アステロイド・シティ』の舞台の「地上のどこにもない世界」というものも、ストップモーション・アニメーションの舞台背景の延長ではないか、と納得するのであった。
 それに、この『ファンタスティック Mr.FOX』の物語で描かれる、「家族」であるとか「その(ちょっと奇妙な)友だち」の世界というのも、ウェス・アンダーソンがよく描いてきた世界でもあったと思う。
 そして、ロアルド・ダールの原作にあるだろう、「単に子ども向け<童話>ではないだろう」という、ちょびっと奇妙で「アダルト」な物語というのも、ウェス・アンダーソン好みではあったのだろうか。

 この作品では「悪役」は人間で、そんな3人の「デブ、チビ、ヤセ」の経営する農園の養鶏場から、いかにしてキツネたちが鶏をかっさらうか、というお話である。「そりゃあキツネの方が悪いに決まってるだろ!」なのだが、キツネにも「生存権」があり、人間たちはそんなキツネたちの生存権をおびやかし、彼らの地上の棲み処を破壊し、キツネたちは地中奥深くに棲まざるを得なかったりもする。
 しかし、この映画ではキツネたち、その他の動物たちは擬人化されてしゃべったりするのだが、なぜか鶏たちはただただ、食べられてしまう存在ではあるし、養鶏場をガードする番犬も、ただの「犬」なのである。この「差異」はどこから来てるのかな?
 また、「りんご酒」倉庫の番をするネズミ(声はウィレム・デフォー)だけは強烈な悪役で、キツネたちを苦しめるのだけれども、この映画の中で唯一、このネズミだけが途中死んでしまうのであった。「誰も死んだりしない作品だろう」と思っていただけに、急なネズミの死にはおどろいてしまった。

 「ストップモーション・アニメーション」として、(先に書いたように)その背景となる風景、建物などは素晴らしいと思ったし、人間たちや多くの動物たちの完成度は高く(わたしはアナグマフクロネズミのファンだ)、いっぱい楽しめたのだけれども、正直言って、主人公らキツネ族は手足が長すぎてスマート過ぎないだろうか? 別にアナグマフクロネズミのような愛らしさを求めてはいないことはわかるのだが、その歩く姿など、マッチ棒が動いているみたいで、「これでいいのかな?」などとは思ってしまったのは確か。

 冒頭、いきなりビーチ・ボーイズの「Heroes and Villains」が流れたのには喜んでしまったし、ラストに皆がダンスに浮かれるシーンの音楽は、ボビー・フラー・フォーだったようだ。やはり、ウェス・アンダーソンの音楽の趣味もシブい。