ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ローマ帝国の滅亡』(1964) アンソニー・マン:監督

 この作品、前作『エル・シド』を撮っていたアンソニー・マンは、本屋の店頭でギボンの『ローマ帝国衰亡史』を見つけて買って読み、スペインに行ったときに製作のサミュエル・ブロンストンにこの本の映画化を売り込んだことから始まったらしい。
 って、原書でも全6巻ある大書をどう映画化するつもりだったのかと思うが、映画はその第1巻のさいしょのところ、マルクス・アウレリウスのローマ治世の時代から彼が暗殺され、息子のコンモドゥスが皇帝となり、そのコンドモゥスも死ぬまでの話。

 アンソニー・マンもプロデューサーのサミュエル・ブロンストンも、またチャールトン・ヘストンソフィア・ローレンの共演を考えていたらしいが、チャールトン・ヘストンフィリップ・ヨーダンの脚本が気に入らなかったらしく、同じサミュエル・ブロンストン製作の『北京の55日』の方に出演することになる。
 それでヘストンの代わりは『ベン・ハー』で彼と共演したスティーヴン・ボイドになり、映画のための架空の人物、ガイアス・リヴィウスを演じた。コンモドゥスは『サウンド・オブ・ミュージック』のクリストファー・プラマーマルクス・アウレリウスは『アラビアのロレンス』のアレック・ギネスが演じ、その『アラビアのロレンス』からはオマー・シャリフアンソニー・クエイルとかも出ている。あとは『ロリータ』のジェームズ・メイスンとかも出演。さすが「ハリウッド大作映画」の時代、出演者はたいていそ~んな「大作」に出演している。
 あ、ソフィア・ローレンはコンドモゥスの姉で、リヴィウスを愛するルシラを演じている。このルシラ、史実でもコンドモゥスを暗殺しようとして失敗するが、そのあとカプリ島に流されて亡くなったそうである。

 というわけで、あれこれと史実と異なってるところも多い。ラストにはいきなり、コンモドゥスが実はマルクス・アウレリウスの子ではなかったな~んて話が出てくるし、「歴史のお勉強のつもりで見てはいけません」という映画。ま、コンモドゥスが暴君だったことは事実だが。

 映画の前半、マルクス・アウレリウスが暗殺されてその葬儀になるまでの展開はけっこう地味で、「どうせウソなんだから、マルクス・アウレリウスの暗殺シーンなんかもっと派手にやっちゃえばいいのに」とか思ってしまう。

 しかしそのあと、コンモドゥスの即位の式典とかは絢爛豪華、「どんだけ力と金をこめてこのセット作ったんだ?」とか「エキストラいったいどれだけ集めたんだ?」とか「エキストラは隅から隅まで全員ローマ兵の服装してるのか?」とか、呆れかえって画面を見つめることになる。あとはローマ軍と反乱軍とのかなりごっつい戦闘シーンもあり、このあたりがこの映画の見せ場だろうか。
 室内の元老院の会議のシーンとかはなかなかに見せてくれて、会議場の真ん中で演説をぶつ長老を、カメラがゆっくりとその周囲を回りながら撮るのなんかはイイ感じだった。
 それから音楽はディミトリ・ティオムキンで、実に壮大な音楽を聴かせてくれる。

 ラストはコンモドゥスとガイアス・リヴィウスとが衆目の下、一対一の決闘となるのだけれども、近距離で撮影して隠しているとはいえ、2人の役者さんはそこまで剣術に巧みではないようだった(どんな役者さんでも剣術に巧みな人などそうはいないだろうが)。
 けっきょく、このラストでローマ帝国がすぐに崩壊するわけではないけれども、内部の腐敗が最終的には崩壊につながるということだった。

 それで観終わってみてこの映画、まさにいかにも当時の「ハリウッド大作映画」というところなのだけれども、精神的な「奥深さ」というものが描かれているとも思えず、つまりは「精神」に対する「物質」の勝利を示したモノなのだろうか。「名匠」と呼んでもいいアンソニー・マン監督も、この作品ではどこかで計算が狂ったのだろうか。残念なことだ。
 この作品、製作費に1600万ドルかけたらしいのだが(当時ではすっごい額だ)、興行収入は480万ドルにとどまり、結果として、製作のサミュエル・ブロンストンは破産してしまったらしい(前作『エル・シド』は製作費700万ドルから900万ドルだったのに対し、興行収入は2660万ドルもあったという~英語版Wikipediaによる~)。