ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『saltburn』(2023)エメラルド・フェンネル:脚本・監督

Saltburn

Saltburn

  • バリー・キオガン
Amazon

 今は「Amazon Prime Video」だけでストリーミング配信されている作品で、わたしはこのように配信されている作品を観るのは初めてのことだけれども、これからはこういう作品を観ることも多くなるのだろうかと思う。昔でいえば「レンタルヴィデオのみで観られる作品」、というところなのだろうか。

 先日観た『聖なる鹿殺し』で印象的な演技をみせていたバリー・コーガンの主演で、あとの俳優はだいたい知らないが、ロザムンド・パイクが出演していたせいで「観てみようかな」という気もちになった。
 監督・脚本はイギリス出身のエメラルド・フェネルという人物で、この作品が監督第二作だという。

 主人公は、貧困と劣悪な家族環境の中からオックスフォード大学に入学して来たというオリヴァー(バリー・コーガン)で、キャンパスで彼に同情的だった、富豪の息子のフェリックスの信頼を得、フェリックスの屋敷「ソルトバーン」へと招待され、そこで夏を過ごす。
 ここまでの流れでは、つまり「階級差」の激しい世界でオリヴァーが打ちのめされて行くような作品なのかと思ったのだが、そうではない。オリヴァーはとんでもない野心家で、「ソルトバーン」でフェリックスのいとこのファーリーをおとしめ、姉のベニシアをたらしこみ、特に母親のエルスペス(ロザムンド・パイク)の信頼を得て行く。またもちろん、オリヴァーはフェリックスへの同性愛的な感情を抱いてもいる。
 オリヴァーはフェリックスに自分の両親について語っていた「嘘」を見抜かれ、フェリックスに「今すぐにソルトバーンを立ち去るように」と言われるのだが、翌日ソルトバーンの庭園でフェリックスの死体が発見されるが、ファーリーの持ち込んだドラッグが原因だとみなされるのだ。

 こうやってストーリー展開を見ると、「これはパトリシア・ハイスミスの『太陽がいっぱい』で、オリヴァーはつまりはトム・リプリーではないか」と思ってしまうし、「ひとりの男が資産家家族に入って家族を(ある意味)破滅させる」という意味では、昨日観たパゾリーニの『テオレマ』のことをも思い浮かべることも無理ではないだろう。
 じっさい、オリヴァーのソルトバーン家でのファーリーとの対話のシーン、そしてベニシアを誘惑するシーンの不穏さ、不気味さはけっこうゾワゾワさせられて、(そういう映画だとは思っていなかったせいもあって)面白く観た。

 しかし、それ以降の展開はひとつには「あり得ない」展開だし(これだけの屋敷が、わけのわからない客人の男に乗っ取られるわけがない)、逆にオリヴァーの目論見が実現するにつれて、オリヴァーという男が「つまらない」人間に思えてしまうのだ(トム・リプリーとの「差」)。終盤に「種明かし」のようにそれまでのオリヴァーの「計画」を説明的に描くのも、映画的な面白さからは遠く離れたものであって、わたしは正直、シラケてしまった。楽しみにしていたロザムンド・パイクの見せ場もなかったし、はっきり書いて、わたしには「時間のムダ」という映画ではあった。