ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『パラダイスの夕暮れ』(1986)アキ・カウリスマキ:脚本・監督

 おととい観た『真夜中の虹』よりも前の作品で、かなりテイストは似通っている(というか、カウリスマキ監督の最新作『枯れ葉』にも共通するところがいっぱいある)。
 そして、カウリスマキ監督の黄金のカップル、マッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンの2人の主演作なのだ。もうこの2人、ハンフリー・ボガートローレン・バコール(日本なら若尾文子川口浩か?古い!)にも比されてもいいような、スクリーン上のベスト・カップルではあるだろう。
 それとこの作品にはもうひとり、マッティ・ペロンパーの同僚役でサカリ・クオスマネンという人が出演してるのだけれども、わたしはこの人の顔は記憶にあるので、やはりカウリスマキ作品の常連俳優だろうと思う。

 年配の同僚と二人組んでゴミ収集車に乗り、市内のゴミ収集の仕事をしているニカンデル(マッティ・ペロンパー)は、「独立する」という同僚に誘われてその気になっている。そんなとき、スーパーのレジ係のイロナ(カティ・オウティネン)に親切にされ、心ときめくのだった。
 しかしそのあと、その同僚は仕事中に心臓発作で急死してしまう。彼との独立の夢がやぶれたニカンデルはその夜バーで泥酔して暴れ、目覚めると留置場にいるのだった。同じ部屋にメラルティン(サカリ・クオスマネン)という失業中の男がいて、ニカンデルは死んだ同僚の代わりにと彼を誘い、採用される。最初は「酒乱の気」があるのかと心配に思われたメラルティンだが、実はニカンデルよりも真面目なくらいで親切な「いい男」なのだった。

 スーパーにゴミ収集に行ったニカンデルはそこでイロナに会い、彼女をデートに誘うのだった。花束を用意してまでイロナに会ったニカンデルは、彼女をなんと「ビンゴゲーム場」へ連れて行くのだ。「ビンゴゲーム場」というのはフィンランドには実際にあるのかしらんが、そこでは皆がテーブルに座って、読み上げられる番号を手元のビンゴカードに埋めていくのである。「んなとこに女性をデートに連れて行く男って何なんだよ」って感じでイロナはさっさと帰ってしまう。あ~あ。
 イロナは同僚とニカンデルのことを話すのだけれども、そこまでニカンデルがダメというんでもない。「ダサいけど、ほっとしてクセになるタイプ」だという。うん、そういう感じかもしれない。言い得て妙なり。

 しっかしこのあと、イロナは勤めるスーパーの店長に、突然に解雇されてしまう。そりゃあ店長が自分の娘を雇うためだと知っているイロナは腹いせに、店長の机の上の小さな金庫を盗んで帰るのである。ヤバい!
 町をさまよっていたイロナは車に給油中のニカンデルに出会い、「いっしょにこれからどこかへ行こう」と誘うのだった。持ち合わせのなかったニカンデルはメラルティンの家へ行き、金を借りようとする。するとメラルティンは、寝ている娘の枕元の貯金箱から金を拝借して、ニカンデルに貸してやるのだった(意外、メラルティンは妻子持ちだったのだ)。

 ニカンデルとイロナは郊外(海辺)のホテルにチェックインするが、部屋は「シングル2つ」。
 翌日、砂浜で並んでラジオを聞いている2人。イロナは金庫を盗んだことをニカンデルに話す。ニカンデルは「それはオレが何とかする」と。
 ホテルから帰ったイロナは警察の事情調査を受けるが、そのあいだにニカンデルは金庫をこっそり元の場所に戻すのだ。イロナは釈放された。

 ‥‥このあともイロナが働き始めたりいろいろあるのだけれども、いいかげん長くなるのでこのあたりで「あらすじ」書くのはストップ。けっきょくラストは『真夜中の虹』とおんなじで、2人は唐突にいっしょになることに決め、メラルティンに見送られて客船に乗るのである。面白いのはこの映画がつくられた1986年にはまだソヴィエト・ロシアがあったので、その2人が乗る客船はソヴィエトのマーク付き。新婚旅行の行き先はタリンなのだという(どこやねん)。

 とにかく、相変わらずカウリスマキらしい楽しい映画。マッティ・ペロンパーもカティ・オウティネンも始終無表情で笑いもしないのだけれども、ラストに船へと向かう車の中で、カティ・オウティネンは微笑みを浮かべていたみたいだった。

 映画の冒頭の、ゴミ収集車が車庫を出て街へ走り出すまでのカット割りが気もち良くって、「ヒッチコックの映画みたいだ!」なんて思ってしまった。あともスーパーの中で手持ちカメラでワンシーンワンカット長回しもやってたし、街の夜のシーンなど赤、青、黄色の原色の使い方が鮮やかだった。
 ついその内容から目が行かなかったりするけれども、カウリスマキ監督は映画技術的にも素晴らしい腕を持っていると思った。

 カウリスマキ監督作品おなじみの「犬」も出てくるし、おっさんのプレイする「生バンド」の演奏シーンもあった。
 『枯れ葉』とおんなじやないか、とか思ってしまうけれども、おんなじでも何でもかまわない、こういう「オアシス」のような映画を、いっぱいみせてほしい。