ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『日本橋』(1956)泉鏡花:原作 市川崑:監督

 先日観た『夜の河』と同じ1956年に公開された、山本富士子出演作。ここでは主演は淡島千景で、他に若尾文子も出演している。淡島千景は松竹専属なので、この大映作品には「貸し出されて出演した」ということなのだろう。
 監督は市川崑で、わたしとしては「だから市川崑監督作品は観たくないのだ」というところで、正直、途中でちょっと飽いてしまった。

 日本橋界隈で評判を呼んでいた「稲葉屋」を取り仕切る女あるじのお孝(淡島千景)だったが、界隈きっての美人芸者の清葉(山本富士子)には強い対抗意識を持っていて、その清葉に振られた客とねんごろになったりしている。
 それで医学士の葛木(品川隆二)という男が清葉に告白するが振られ、偶然知り合ったお孝と深い仲になるのだ。別に熊の毛皮を着ていて「赤熊」と呼ばれる、かつてお孝と深く付き合った男がいるが、彼はお孝に捨てられて商売も失敗して妻にも死なれ、ひとり乳呑み児をかかえてお孝を追い回している。ついにはその乳呑み児を清葉の家の前に捨ててしまう。その子を拾った清葉は自分でその子を育てることにするが。
 赤熊は、葛木がいなくなればまたお孝といい仲に戻れると思い、お孝には追い出されるだけなので葛木に会い、「お孝と別れてくれ」と土下座して頼み込むのだ。葛木は赤熊の執念に押され、出家してしまう。葛木のいなくなったお孝は恋しさのあまり狂ってしまい、「稲葉屋」にはお千世(若尾文子)のみが残ってお孝の身辺の世話をする。
 ある夜、清葉の家から火が出る。近くにいた赤熊は清葉の母と実は自分の子である乳呑み児を救い出し、火事のどさくさで日本刀を手に入れると「稲葉屋」に乗り込む。お孝と誤認してお千世を刺してしまう赤熊は、逆にお孝に刺し殺されてしまう。
 そこに葛木が「これから巡礼の旅に出る」と知らせるために「稲葉屋」を訪れて、一命をとりとめたお千世を病院へと送る。しかしお孝は葛木の前で毒をあおって死んでしまうのであった。
 火事と事件の落ち着いたあと、清葉はお孝の代わりに乳呑み児と共に「稲葉屋」へと移り、それからはお千世と「稲葉屋」を継ぐことになるだろう。

 原作はどういうタッチなのか知らないけれども、なんだか騒々しい、落ち着きのない作品という印象。座敷のシーンも変な撮り方をしているので、風情も何もないし、刃傷沙汰の描き方などただ「おどろおどしい」だけではないか。
 何度か登場する、置屋の前の細い路地を撮った縦の構図とかを見ると、「これって宮川一夫の撮影のマネ?」って思ってしまった。この映画について書かれた記事で、「カラー撮影の発色を良くするためにセットの中を灰色に塗った」などと書いてあって、それはやはり『夜の河』のときの宮川一夫のマネ、ではないかと思う。
 それでうまくいっていれば「いい影響」ということで構わないのだけれども、見ていて「カメラの動きが変だなあ」と、何度も思うことになった。

 主演の淡島千景という人も、わたしも「きれいな人」というイメージを持っていて、この作品でもたしかに美しいのだけれども、はっきり言ってこの演技付けでは芸者の艶めかしさは出ないように思った。
 山本富士子もやはり美しいが出番は少なく、『夜の河』のすばらしさには及ばないと思った。
 若尾文子溝口健二監督の『祇園囃子』から三年経っていて、さすが芸者姿はさまになっているけれども、まだまだ「ぽっちゃりとかわいい」というイメージではあった。