ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『レザボア・ドッグス』(1992) クエンティン・タランティーノ:脚本・監督

 わたしはもう、しっかりこの映画のストーリーも何も忘れてしまっていたのだけれども(使われていた音楽は多少憶えていたが)、今観ると、日本で最近起きたフィリピンの監獄にいた「ルフィ」の指令による連続強盗事件のことを思い出してしまうのだった。

 この映画、出演者を数えてみると強盗実行役の6人と、指示役の2人、それと拉致されて来た警官と、トータルで9人だけ(実質7人)のキャストでの映画なのだな。これは先日観たコーエン兄弟の第1作『ブラッド・シンプル』の出演者が5人だけだったことも思い出され、こちらもタランティーノ監督の第1作なのだった。

 冒頭の「強盗決行前」のダイナーでの8人揃っての朝食シーン、有名になってしまったマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」をめぐるしょ~もない雑談から皆が外に出て、The George Baker Selectionの「Little Green Bag」をバックに8人がスローモーションで歩いて来る印象的なタイトル部になるけれど、そのあと急に、「もう強盗も終わったあと」に話が飛び、車を運転するミスター・ホワイト(ハーヴェイ・カイテル)と、腹を撃たれてひん死の状態のミスター・オレンジ(ティム・ロス)との場面になる。この「ジャンプ」にはけっこう驚かされるのだが、以後ときどき「強盗」前に話が戻ることはあっても、その「強盗」シーンが写されることはなかった。
 その後、ミスター・ピンク(スティーヴ・ブシェミ)やミスター・ブロンド(マイケル・マドセン)、ナイスガイ・エディ(クリス・ペン)らも強盗決行後の集合場所の倉庫に集まって来るが、ミスター・ブロンドによる警官への眼を背けたくなる残虐なリンチがあるとはいえ、話の中心はやはりミスター・ホワイトとミスター・オレンジにあるだろうか。というか、ここで描かれるミスター・ブロンドの嗜虐性が、ミスター・ホワイトとミスター・オレンジとの距離を近くさせてもいたわけだ。そのことが、昔からミスター・ブロンドのことをよく知っていたエディやジョーとの「分裂」の下地になる。

 ストーリー展開はたしかにめっちゃ面白いのだけれども、その後こういう感じの閉鎖空間の中での抗争というのもいろんな映画で描かれ、特にわたしなどは黒沢清監督の、対象に距離を置いた固定カメラでのミドル・ショット~ロング・ショットでの演出に酔わせてもらって来たもので、ここでの人物への近距離ショットの切り返しの連続、というスタイルでの演出には(後追いながら)疑問もある。

 しかし、このラストでのミスター・ホワイトとミスター・オレンジとの関係はほとんど「ホモセクシュアル」をも想起させられるもの、ではあるだろう。
 昨日観た『ビッグ・リボウスキ』ではただひとり無関係なのに死んでしまったスティーヴ・ブシェミだったけど、この『レザボア・ドッグス』では逆にただひとり生き残り、奪った宝石も「ひとり占め」してしまったのかもしれない(ま、そううまくは行かなかっただろうけれども)。

 ファースト・シーン以外でも使われる既製曲とその使い方がカッコよく、以後タランティーノのトレードマークみたいにもなるけれど、ミスター・ブロンドの残虐シーンの前に流れるStealers Wheelの「Stuck in the Middle with You」、そしてラスト・クレジットのバックで流れるHarry Nilssonの「Coconut」など、もうこの映画との深い結び付き抜きには聴けないほどになっているだろう。