ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『荒野のストレンジャー』(1973) クリント・イーストウッド:監督・主演

 原題は「High Plains Drifter」で、そのまま直訳すれば「高原の放浪者」だろう。『荒野のストレンジャー』という邦題はイイ感じだ。そしてこの映画の主人公、「ストレンジャー」と言うにはお似合いではあった。

 湖のほとりの小さな町ラーゴに、乗馬姿のひとりの男がやって来る。町のゴロツキらしい3人の男が彼にからんで来るが、男はあっという間に3発で3人を撃ち殺してしまう。
 町の住民は「どうせならず者だった」と、男の行為を問題にはしない。ついでに男はからんで来た女を納屋に連れ込み、セックスしてしまう(それまでの西部劇ではなかった描写だ)。
 どうやら、この町にはムショ帰りの3人の男が釈放されてやって来るはずで、男が殺した3人の男とは、そのムショ帰りの3人をやっつけるために町で雇っていたらしい。それで保安官や町の財源の金鉱のオーナーらは、「しょ~がないからその腕の立つ男に死んだ3人の代わりをやらせよう」ということになる。
 男はその夜、男たちにムチ打たれてなぶり殺しにされる男の夢(?)をみてうなされている。

 翌日、男はそのあたりの町の事情を知り、引き受ける代わりに保安官を解任し、町の道化的な小人を保安官にする。何でも男の言うとおりにさせ、3人の男1人につき1000ドルを要求し、赤いペンキを大量に用意させ、町中の建物をすべて真っ赤に塗らせる。
 保安官になった小人は、町人からバカにされて家の軒下へ逃れるが、彼もまたそのとき、男たちにムチ打たれてなぶり殺しにされる男の幻影を見る。
 その夜、男は町に一軒のホテルのおかみとも関係を持つが、翌朝おかみはこの町の前の保安官の話をする。彼の墓には墓標が刻まれてなく、墓標がないとその霊はさまようのではないかとおかみは話をする。それで町の人間はよそ者を怖れているのだと。
 また、前の保安官はこの町の財源の金鉱採掘は違法で、そのことを訴えようとしていたので町人に見捨てられ、ムショに行った3人にムチで殺されたのだった。

 そのムショ帰りの3人が町にやって来て、男は赤く塗られ、しかも火がつけられて燃え上がる町をバックに、3人の男らを殺して行く。いっしょに、町の悪玉だった金鉱主や元保安官らも死んでしまう。
 すべてが終わった翌朝、町を立とうとする男は墓地で、殺された保安官の墓標に名を刻む小人と出会う。小人は男に「あんた、何て名前なんだ?」と聞くが、男は「知っているはずだ」と答えて去って行くのであった。

 荒野の、悪事はびこる町に流れ者がやって来て、「用心棒」的に雇われるならそれはまさに『荒野の用心棒』の展開になる。帽子をかぶってヒゲを生やしたイーストウッドの風貌も、ポンチョこそ着てはいないが『荒野の用心棒』を思い出させられる。
 そしたら男はまずは町の床屋へ行き、「ヒゲを剃ってくれ」と言うものだから、「えっ? ヒゲ、剃っちゃうの?」っていささかびっくり。それがもう、まさに頬に剃刀を当てて「剃るぞ!」というところで邪魔が入るのだね(彼がほんとうにヒゲを剃るつもりだったのかどうか、疑問だが)。

 そういう感じで、導入部はまさに「マカロニ・ウエスタン」時代のイーストウッドを彷彿とさせるものだったといえるだろうけれども、もうひとつ、この映画の中で悪人になぶり殺しにされて死ぬ、前の保安官の話は、この保安官が悪人らをやっつけてしまっていれば、ゲイリー・クーパー主演の名作『真昼の決闘』にそっくりではある(まあゲイリー・クーパーは1人で悪人らを倒してしまうのだが)。この『真昼の決闘』もずいぶん前に観たっきりで、ほとんど忘れてしまっているので、明日にでも観てみようかと思うが。

 だいたいこの映画、町はペンキで真っ赤に塗ってしまうし、男は町の入口のところの看板に「HELL」とは書きつけている。戦いの夜も男の背後では炎がメラメラと燃え上がっているわけだし、3人の悪玉らはまさに「地獄の炎に焼かれるように」殺されて行く。もうすっかり「ホラー映画」であろう。
 翌朝、宿の主人も死んで、おかみも町を出て行こうとしていたが、やはり町を出て行こうとする男を見てほほえみ、彼女だけは男の正体を知っているようだった。

 あと、このくらいの時代の映画というのはスタントマンもハッスルしているというか、観ていて途中で屋根から落下する人物なんか、「あんな落ち方だとマジで足の骨を折るぜ!」とか思わされるものだった。