ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『荒野の決闘』(1946) ジョン・フォード:監督

 これはけっこう記憶していた映画だ。ヘンリー・フォンダ扮するワイアット・アープが保安官事務所の外で椅子に座り、前の柱に足を交互にかけるところとか、教会の集まりでワイアット・アープとクレメンタインが踊るシーン(ヘンリー・フォンダの足の上がり方がキリッとしていてカッコよかった)。そう、酒場の女、「チワワ」という変な名まえの女性が出てくるのはこの映画だったのか。演じているのはリンダ・ダーネルという女優さんで、この方は若くして自宅の火事で亡くなられたらしい。

 自分の弟を殺した犯人を捕らえるために保安官になったワイアット・アープが、ドク・ホリディ(ビクター・マチュア)の助けを得て犯人のクラントン一家との対決を制し、町を去って行くわけだけれども、そんな中に町での人々の暮らしぶりも描かれ、ワイアット・アープとドク・ホリディの愛憎関係というか、そこにチワワと、ドクを追って町にやって来るクレメンタインとの四角関係みたいなものも描かれる。チワワもクレメンタインもドクを追っかけてるわけだけれども、ドクは結核だから自暴自棄というか、ただ死に場所を探しているだけかもしれない。ワイアットはクレメンタインに「一目惚れ」なわけだけれども、ウブで自分の気持ちをしっかりと伝えられない。これがラストの「クレメンタイン、いい名まえです」という名セリフになる。

 しかし、どのシーンもどのシーンも、空の雲がすっごい映画だなと思う。ジョン・フォードは、「絵になる雲」を待って撮影したのだろう。
 単純に「撃ち合い」のアクション映画ではなく、シェイクスピア役者が出て来たりして、ドク・ホリディが実はシェイクスピアを暗唱できるインテリだということもサラリと描いてみせる。
 さいごの決闘シーンも、それはさすがにジョン・フォードで、遠くから駅馬車が疾走して来て、その駅馬車が対立する二組のあいだを駆け抜けてすっごい砂ぼこりがあがり、その砂ぼこりがおさまったときに銃撃戦が始まるのだ。
 この「砂ぼこり」が強烈で、あなた、当時はCGであとで操作したり出来ませんからね。こういうところに映画人の苦労というか手腕を感じますね。

 映像としてやはり、ところどころ「ドイツ表現主義映画」の影響を感じるショットもあり、特にさいしょの方で夜の町の酒場で酔っ払いが暴れるのをワイアット・アープがおさめるというシーン、酒場の中からの明かりで、その入り口に酔っ払いが逆光の黒いシルエットで立っているシーンなど、ジョン・フォードの美意識を感じる。
 けっきょく、どこのどんなシーンひとつにしても、今の映画監督にはまったくマネも出来ないような映画ではないのかと思う。