ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『贖罪』(2012) 第4話「とつきとおか」 湊かなえ:原作 黒沢清:脚本・監督

 第4話のヒロインは、エミリーが殺害されたときに事件を警察に伝えに行った由佳(池脇千鶴)。

 由佳は実は麻子に「償いを」と言われたことなど気にはとめていない。ただ、交番に事件を知らせに飛び込んだあと、その交番の警官に親切にされたことから、その警官のような大きくがっしりした男に惹かれるようになる。また、姉の真由が幼い頃病弱で、母親が真由に優先してものを買ってあげたりしたため、「何でも姉に取られてしまう」という意識にも捉えられている。

 事件から15年。由佳は自力でフラワーショップを開店させるのだが、そんなときに訪れて来た姉の真由(伊藤歩)から、真由の夫が警察官であることを知る。由佳は夫を誘惑し、ベッドを共にする(黒沢清監督には珍しいベッドシーンがある~顔のアップだけではあるが~)。
 由佳は妊娠し、姉には「あなたの夫が父親だ」と告げたりする。それは姉への復讐でもあるが、実のところその時期に由佳は複数の男と交際していたようで、誰が父親なのかわからないというのが本当のところらしい(これは由佳が真由に話すことで、真実なのかどうかわからないのだが)。
 由佳は真由の夫と会い、「あなたを幸せに出来るのはわたしだけ」と言うが彼は「君のことなど最初っから愛してなどいなかった」と言う。そのとき二人がいた戸外の階段の上から、由佳は彼を突き落として殺害する。
 由佳はそのとき出産が切迫し、そのまま産院に運ばれて出産する。

 そんなとき、ニュースでインタビューを受けていた男の声が、まさに15年前にエミリーを殺した犯人の声だと思う。
 ちょうどそのとき、麻子から手紙が届き、それはそれまでに紗英も晶子も人を殺めてしまうし、真紀は殺害されもしたことから、「もう償いのことは考えなくていい」という内容だった。
 しかし由佳は、自分が知った「犯人の声」のことを麻子に伝えようと連絡し、産院に見舞いに来てくれた麻子にそのことを話す。「わたしは警察にこのことを話していないので、麻子さんが復讐するかどうかは麻子さんの自由です」と言う。

 今までの展開とは異なって、つまり由佳には「15年前の事件のトラウマ」などというものはなく、強いて言えば事件を契機に警察官のような男にあこがれるようになった、ということだろうか。
 そういうことで映像の背後に「15年前の記憶がのしかかる」という意味での「サスペンス・ミステリー」的な演出ではなく、ここにあるのは姉妹の確執であったり、男を誘惑する「魔性の女」の話だったりする。
 映像も基本は明るく、前の3話にあったような不穏な空気もあまり感じられない(ただ、この回冒頭の事件直後の由佳の家の描写で、その母親の影のあり方が不気味だったとは思ったが)。