ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『贖罪』(2012) 最終話「償い」 湊かなえ:原作 黒沢清:脚本・監督

 いよいよ「最終話」で、麻子(小泉今日子)は前回の由佳の話の「犯人の声を聞いた」という話から思い当たるところがあり、事件の真相へと迫って行くのだけれども、けっこうゴチャゴチャとややっこしい話でもあり、また、わたしは今までの4話についてしっかり「ネタバレ」と言える内容まで書いてしまっていることだし、これから観る人たちのためにも、この最終話ぐらいはストーリー展開はバラさないでおくべきだろうかと思う。
 ただ言えるのは、「15年前のエミリーちゃん殺し」は麻子の過去に深くかかわっていた事件ではあったということで、そういう意味では15年前に麻子が冷静に自分の過去を考えるならば、4人の女の子に関係なく「真相」にたどり着くことも出来たのではないかということ。
 そうすると、麻子はわざわざ事件のあとエミリーちゃんといっしょにいた4人の女の子を自宅に呼び、「あなた方がバカだから犯人が捕まらない」とか「償いを見せなさい。それまでわたしはあなた方4人のことを1分1秒たりと忘れません!」と恫喝したことは見当外れであって、そんなこと意に介しなかった由佳以外の3人のその後の人生を大きく狂わせてしまったのではないのか。いや、由佳だって、「事件」の影響はそれなりに受けていたと言えるだろう。とにかく4人全員が15年後に「殺人」に関わる生き方になるのだから、麻子は責任も重いのではないのか(もちろん、彼女はその「償い」をしようとするのだけれども)。

 わたしとしては、5話を通して観てもどこかスッキリしないところがあるというか、やはりこの「最終話」の展開がそれまでの4話にしっかりとリンクしないあたりに不満がある。ま、コレは原作がそうなっているわけで、脚本・監督の黒沢清のせいではないだろう。
 けっきょくこの「最終話」も、黒沢清の演出の魅力にハマるしかないわけだけれども、ここでも「廃墟」のような建物が頻出し、そういうところで「黒沢清ワールド」を堪能する。
 面白いのは麻子が行くその地方の警察署が、おそらくは転居間近なのか、窓には全面白いビニールが貼られているし、ガラ~ンとしたフロア内がいかにも「殺風景」。そんな中で淡々と警官と麻子とのやり取りが繰り広げられる。

 そしてやはりこのドラマで良かったのは、小泉今日子のその姿が、その殺風景な警察署内の白っぽい光の中で、いかにも美しく撮られていたことで、このあたりの映像の美しさはちょっと日本の映画でも観られないものだと思ったし、もうここでの小泉今日子は、「フランスの名女優」という感じでもあり、「素晴らしい女優さんだ」とは思うのだった。この翌年、小泉今日子NHKの朝ドラ『あまちゃん』でヒロインの能年玲奈(のん)のお母さんを演じたこともわたしには強く印象に残っているが、その中で「東京へ行く」という能年玲奈に「東京の恐ろしさ」を語るとき、「黒のワンボックス・カー!」と語ったときのそのイントネーションとか、もう大笑いさせられ、今でもしっかりそのシーンは記憶しているほどではある(まあこの書き方では伝わらないことと思うが)。

 ここで小泉今日子と対峙する刑事が新井浩文で、「ずいぶんと久しぶりだなあ、この俳優さんもこの頃見ないなあ」と思ったら、わたしはすっかり忘れていたけれども、この新井浩文は数年前に「性犯罪」で警察に逮捕され、芸能界からは「引退」しているのだった。
 そういう意味ではこの最終話にはあの香川照之も出演していて、今では彼も新作映画には出ることもなくなってしまったのだった。そういう意味では「いわく付き」のこの「最終話」だ、とも言えるだろうか。
 あと、唯野未歩子も出演していて、「この人も久しぶりだなあ」と思ったが、この方は不祥事を起こしているわけでもなく、今でも活躍されているのだ。