ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ことの次第』(1982) ロバート・クレイマー、ヴィム・ヴェンダース:脚本 ヴィム・ヴェンダース:監督

 ヴェンダース監督は、1976年の『さすらい』の好評を得て、翌年に初めて原作(パトリシア・ハイスミス)のある『アメリカの友人』を撮り、一本のドキュメンタリーをはさんでコッポラに声をかけられて、アメリカ資本で『ハメット』を撮り始めるけれども、コッポラの製作意向とソリが合わなかったようで、撮影は何度も中断されたという。ヴェンダースはその「中断期間」にポルトガルへ飛び、『ハメット』撮影のトラブルを題材にしたようなこの作品を撮ったのだという。
 いちおう完成された『ハメット』は酷評され、興行的にも失敗作となったようだけれども、この『ことの次第』の方はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞するのだった。

 この作品はまさにポルトガルでSF映画を撮っているアメリカとヨーロッパとの混成撮影チームの話なのだけれども、冒頭で実は資金不足だったことが暴露され、撮影フィルムさえなくなってしまうのだ。ゴードンというプロデューサーが事態打開するとしてロサンゼルスへ飛び、そのあいだ撮影は休止となる。
 ゴードンからの連絡もなく、皆の心はバラバラになる。監督のフリッツはゴードンに会うためにロサンゼルスへ行くのだが。

 「偶然にも」というか、この状態はヴェンダースが「ロードムーヴィー3部作」で撮った「サスペンデッド状態」というものの続きっぽくもあり、しかもようやっと、主人公らは「映画を撮る」ことを目指しているわけだ。そういう意味でこの作品の空気感はその3部作、わたしの感じでは特に2作目の『まわり道』的なところがあるように思えた。
 ただこの作品、言ってみれば「3部構成」になっているとも言えて、その第1部は非常に短いのだが、冒頭の彼らが撮っているSF映画。
 そのあとが、撮影が中断、休止になってからのキャスト・スタッフらの織り成すドラマ。基本的にお互いでの対話、会話になるのだが、その多くが「映画」に関しての対話、会話であって、多少はメタっぽい構成になっているし、わたしが『まわり道』的だと思ったのもこの部分ではある。
 ラストは監督のフリッツがロサンゼルスへ行ってプロデューサーのゴードンを探し出し、彼とさいごの対話をするという、ちょっとサスペンスフルなドラマになっていたと思う。もしかしたら、このさいごのロサンゼルスの部分は、ヴェンダースが撮っていた『ハメット』のことが大きな影を投げかけていたのではないかとも思う(わたしは『ハメット』を観ていないので何とも言えないのだが)。

 この作品の中には、「映画とは何か?」ということから派生したような会話がいろいろと繰り広げられるのだが、わたしにはそういう会話の中で、「物語は物語の中にしか存在しない」ということばは、心に引っかかっただろうか?