ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『物語 世界動物史』(下)ヘルベルト・ヴェント:著 小原秀雄・羽田節子・大羽更明:訳

 上巻を読み終えたときにも書いたが、この本の原題は「Auf Noahs Spuren」で、「ノアの足跡をたどる」とかいう意味。あくまで西欧人の視点から書かれた「動物発見史」という側面を持つ本だけれども、「生物学」の発展と合わせてのドキュメンタリーとしても、読みごたえがある本だった。
 ただ、さすがに「魚類」に関しての記述はほとんどなく、この下巻の最終章で駆け足的に書かれるにすぎない。もちろん、「魚類の歴史」を書こうとすれば、それで一冊の本になってしまうだろうが。

 この本が楽しいのはその挿入図版の豊富なことで、特にアジア系の動物に関しては葛飾北斎の作品が非常に多く掲載され、この本の著者も北斎の観察力の確かさ、絵の見事さについてたびたび語っている。もちろんそれ以外の、原始時代の壁画、古文書に掲載された動物の絵など、どの図版も興味深く見て楽しい。

 この本は歴史上のさまざまな書物の動物への記述から、その動物の「発見」、「分類」のストーリーを、興味深くも楽しい挿話と共に語る「動物学への外からのアプローチ」ともいえるもので、例え「動物学」というものの知識のないものにも楽しんで読むことが出来る本ではないかと思う。そのことは自然「人類の未開の地開拓史」をもあらわしてくれるが、それは西欧の「開拓者」らが、未開の地でいかに横暴な行動を繰り返して来たかということの証言にもなっている。つまり単に「動物学」から離れても、読みがいのある本だったと思うし、それぞれの動物に興味を持って「より深く」調べようとする際の、入門書としても優れたものだと思う。

 そんな内容もさることながら、この翻訳も立派な仕事だとは思う。原書にはなかった「動物名索引」を新たに作成されてもいるが、そもそもすべての記載された動物の「和名」を調べるのもひと仕事だろう。訳者は人名、地名の表記についても細心の注意を払って訳されていることもわかる。そうしてそんな中で、原書の過ちを発見し、注で訂正したりしている。そういうのでは、図版の北斎の絵を著者は「レッサーパンダではないのか? 日本人もレッサーパンダを知っていた」としているのだが、翻訳で「これはタヌキ」と訂正してあったりした。