ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『フューチャー・ライフ』ミッシェル・サロモン:編 辻由美:訳

        f:id:crosstalk:20200509061721j:plain:w400

 この書物がフランスで刊行されたのは1983年。そして邦訳が出たのは1985年。古い本である。ミッシェル・サロモンという編者が、20人の医学者、生物学者などなどと対話を行った記録である。テーマになったのは、20世紀の前半は物理学の時代だったけれども、その後半は生物学医学の革命の時代だったという視点から、2000年代になったとき、人間を取り巻く医学はどのような進化をみせているだろうかということから、それぞれの学者の世界観に迫るような内容。
 前に書いたように、インタビューを受けた学者でわたしが知っていたのはコンラート・ローレンツ、ルネ・デュボス、ジャック・アタリの3人だけだったけれども、それぞれの学者はノーベル賞受賞者であったり、Wikipediaで検索してもだいたいの人はその項目があるような人ばかりだった。

 ただ、いちおうイヴァン・イリイチのことは多少は語られるのだけれども、ミシェル・フーコーのことはまるで無視され、どこか保守的な空気も感じてしまう書物だ。そんな中ではジャック・アタリの考えを興味深く読んだ。

 読んでいると、全体で対話相手として登場するミッシェル・サロモンのジャーナリスティックな視点が論を進めるブレーキとも感じられてしまったが、じっさいにサロモン氏はそういう雑誌の編集長をやられていたらしい。
 あと、これはあえて名前は出さないが、一人だけ読んでいて「この人の思想はヤバいのではないか?」という人物がいて、まあカルトな新興宗教の始祖みたいな、読んでいてもあやしさ満載の人物なのだが、ネットで調べるとひっかかってきた。つまりこの人物は脳科学者なのだが、脳にチップを埋め込むという研究を大規模にやっていて、その初期段階で猿などの実験動物での実験を行っていて(このことはこの『フューチャー・ライフ』の中でも語られてはいるのだが)、かなり当時から批判を浴びていたらしい。しかし編者のサロモン氏はこの人物がお気に入りなのか、けっこう賛意を示すような対話をやっていて、読んでいても「この人、大丈夫だろうか?」と思わせられるところがあった。まあ「時流に乗るジャーナリスト」というところで、その時代時代にこのような人物は湧いて出て来るのである。今のCOVID-19のパンデミック状況においても同じだろう。気をつけないといけないと思った。