ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『見知らぬ三人の男』トマス・ハーディ:著 森村豊:訳(ハーディ短篇集『月下の惨劇』より)

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 トマス・ハーディは、わたしがテレンス・スタンプ出演ゆえに買ったDVD『遥か群衆を離れて』の原作者。他にも『テス』だとか『日陰者ジュード』などの作品は著名で、わたしもそのタイトルぐらいは知っている。
 今回は、岩波文庫の「リクエスト復刊」による戦前の古い訳文の短篇集を読んでいるわけである。まずは冒頭の『見知らぬ三人の男(The Three Strangers)』を読んだ。

 まあ何となく、このトマス・ハーディという人は「運命のいたずら」で偶然の出会いが生んだ「悲劇」みたいなのを書く人か、という先入観もあった。
 この『見知らぬ三人の男』もたしかに、「そりゃあ<運命的>出会いだったね」というお話ではあるけれども、だからといってその出会いが「悲劇」となるのではなく、「あらららら」というような、ちょっとした諧謔的なストーリーになっている。

 田舎の、町からは離れた何もない野っ原の、街道の交差する十字路のそばにある家で、子供の誕生を祝う集まりが開かれていて、そこに辺りの住民はたいてい集まって、つまりは「飲めや歌えや」というパーティーになっている。外はいつしか激しい雨になっている。
 そんな雨の中、びしょ濡れの男がひとり町の方から歩いてきて、「雨宿りを」という感じでその家のドアを叩き、「いらっしゃい」と歓迎される。さらにしばらくして、逆の方向からもうひとりの男がやって来る。この男は明日町で行われる死刑執行の「執行人」だという。
 さらにそのあと、もうひとりの客人が訪れるのだが、先客二人の姿を見て不自然なまでにガタガタブルブルして、すぐに出て行ってしまう。その先客二人も出て行ってしまったあとに、町から警鐘が響いてくる。なんと、明日刑が執行されるはずの犯人が、町の監獄から逃亡したのだという。パーティー真っただ中の人たちはその知らせを聞き、「そりゃあさいごに来てガタガタブルブルですぐに出て行った男こそ、ここにいた死刑執行人を見てビビり、逃げて行ったわけだろう」と、さいごの客が脱走犯だろうと追うことになる。「さてさて、真相やいかに?」という作品である。

 ネタバレしてしまえば、さいしょのびしょ濡れの男こそ「脱走犯」で、あとから自分のために来た「死刑執行人」に出会っても、平然といっしょに飲んだりのやり取りをしていたわけで、さいごに来た男はその死刑囚の親戚で、刑執行を見届けるためにやって来たわけが、雨宿りで寄った家でその死刑囚が死刑執行人と楽しそうに酒を飲んでいたもので、びっくらこいて逃げ出したというわけだ。
 けっきょくその脱走犯は二度と捕まらなかったらしいが。

 まあちょっとした「小話」という感じで、どうのこうのというような作品でもないが、作者のトマス・ハーディにしてみれば、こういうストーリーを組み立てることに楽しみもあったわけだろうし、読者もまた、「最後のオチ」まで読んで「ハハハ、楽しいね」ということになったのだろう。
 ただ読んでいて、そんな雨の中、十字路に近い一軒家に皆が集ってのパーティーというさまは、その楽しさの伝わって来る筆致だったろう。