ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ:協同脚本・監督

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 カンヌ国際映画祭で「パルムドール」を受賞した作品。監督は韓国のポン・ジュノ監督なのだけれども、わたしには彼の監督した映画の記憶はまるでない。観ていないということはないと思うのだけれども、作風など、まるでわからない。この作品も、とにかくは「ブラック・コメディ」なのだろうという予測はつくが、いつものように前情報も得ないままに鑑賞した。「まったく先の読めない展開」ということは聞いていたけれども、わたしにとっては映画というものは皆、先が読めるというものではないから、それが特別なことではない。

 ‥‥ということで観終えての感想。
 これはどこか「映画」というものの原点に立ち返ったような作品で、その情況とか構造とかをしっかりと脚本で提示して、映像的に美術(豪邸のセット!)と撮影とがみごとなサポートをみせる。そしてその展開は出演する俳優たちの演技、というよりもそのキャラクターに任せているような印象で、それはどこか「演劇的」とも思える作品だった。そして、「ここぞ!」というところでの唐突とも思える60年代イタリアン・ポップス。
 先にこの音楽のことを書いておけば、わたしはこの曲の記憶があったわけで、ジャンニ・モランディの「貴方にひざまづいて」という曲。日本でもそこそこヒットした曲だったが、この声量にまかせて歌い上げるフル・オーケストラの曲の登場はタイミングといい「最高」で、わたしの勝手な考えでは、ヨーロッパでのこの映画のヒット、好評ぶりのウラには、この曲が使用されていたことも大きく作用していたのではないかと思ってしまう。この曲である。

 さて、ストーリー展開を何もかもバラしてしまうと、これから観る人に不親切になってしまうので書きにくいのだけれども、まずは「半地下の家族」という父、母、息子、娘(息子と娘とは大学進学する年齢なのだけれども、貧困ゆえに大学には進学しなかったのだ)の四人家族がいて、これが名だたる建築家による設計の現代的な豪邸に住む富豪家族(やはり四人家族)に取り入り、家庭教師、カウンセラー、運転手、家政婦としてすっかりその富豪家族に寄生(パラサイト)するというわけなのだが、ここには別に、まさに「地下」に住む夫婦、という存在が出てくる。そして「事件」が起きて‥‥、というストーリー。
 これはもちろん韓国の「格差社会」の戯画化なわけだけれども、日本だって同じような格差社会なわけだから、わかりやすいだろうか(設定にどこか『万引き家族』を思わせるところもあるし)。まるで去年の日本のような「豪雨」による水害、その水害からの避難という展開もあるが、登場する三組の家族が「混戦」するめくるめく展開は、やはりもういちど観てみたくなる面白さだったし、脚本の中に組み込まれた「伏線」というものも、あれこれとあるようだ。

 そもそもこの物語の発端には、家族が<水石>をもらって来るあたりから始まっていたと思うのだが、そもそも<水石>を飾り鑑賞するのは日本の文化だろう。「いったいあの<水石>は何だったのだろう?」とか思い始めると、やはりもういちど観に行きたくなってしまうのだ。

 俳優たちが皆個性的でみごとなのだけれども、わたしは富豪の夫人の松嶋菜々子似の女優さんの、くったくのない、「天然」とも思える演技がいちばん気に入ってしまった。