金曜日だ。仕事を終えたあと、何かお出かけしようと思っていたが、あいにくと冷たい雨が降り始めていた。プランAとしては新国立劇場で演劇を観るというのがあったが、調べるとこの日はマチネ公演はなく、じゃあプランBとして、ギャラリー巡りをしてみようということにした。恵比寿のギャラリーでの合田ノブヨさんの個展も今日までだし、同じ恵比寿で桑原弘明氏の個展も開催中。銀座、湯島では知人の参加した展覧会もある。この4つを廻ってみよう。
しかし雨は冷たく、思いのほか雨脚も強い。まずは恵比寿へ行き、GALERIE Malleというギャラリーで桑原弘明の「柘榴の時間」展を観る。そこまでは大きくもないギャラリー内に、小さな箱が6つ展示されている。それぞれがせいぜい6~7センチ角の立方体で、手前に観客が覗く「覗き穴」があり、上にはライトで中を照らすための明り取りの穴がある。ライトをつけて中を覗くと、そこに極小のミニュアチュールが、室内を模した箱の内部に置かれているのを観ることができる。桑原氏は自身の作品を「スコープ」と名付けられている。
1点だけ、照明を照らす穴が上部に2ヶ所、そして下部に1つある作品があり、これが「柘榴」。照明を照らす場所によって、内部の柘榴への視線も変わるし、柘榴の数が異なっても観えるのだ。
わたしが桑原氏の作品を最初に観たのはいつだったのか、そんなに古い過去のことではないと思うが、それからこの作家の名まえは心の奥に刻まれていた。いちどにひとりの観客しか観ることのできない作品は、大きな展覧会には向かないが、それだけにこんな秋の日に、ゆっくりとひとりで作品を独占できるのは至極うれしい。
「柘榴」の1点を除いた残り5点は簡易版というのか、「紙スコープ」と呼ばれ、これらは観客が希望の紙スコープを書いて投票し、展覧会最終日に桑原氏がそこから抽選し、選ばれたお客さんにプレゼントされるそうだ。もちろんわたしも投票した。
次は同じ恵比寿の、Galerie LIBRARIE6での合田ノブヨ「Sleep Talking」展。このギャラリーは先月「スワーンベリ展」を観にきたばかりのところ。
作者の合田ノブヨさんは、あの合田佐和子と三木富雄との申し子であられるのだが、その作品は写真コラージュに淡いパステルや水彩で着色されたもの。夢のような光景の中に、妖精のような女性像が置かれている。
19世紀末に「妖精の写真」というものが一世を風靡し、その真偽をめぐっての論争も起きたこともあったのだが、この合田さんの作品は、そんな「妖精の写真」が新たな時代にまた生命を吹き込まれ、「夢の光景」としてよみがえったようだった。
恵比寿から銀座に移動し、先月わたしの娘が個展を行った画廊ビルへと行く。ここではわたしの古い知人の塩﨑由美子さんが平田星司さんという方と「秋の日 Days in Autumn」という2人展を行われている。
塩﨑さんの作品は基本は窓ガラス越しに外の光景を撮った写真。その窓ガラスに雨だろうか水滴がつき、そして木の葉のような形のオブジェが貼り付けられている。その写真の横には淡い水彩で印(しるし)づけられている作品もある。
リリカルで美しい作品。心に安らぎを得られる作品だった。
さいごはもう帰り道、湯島にある羽黒洞というギャラリーでの「真実純粋素朴原始は美の神々達展」という、ちょっとおどろおどろしいタイトルのグループ展。ここに旧友の亀井三千代さんが出品されている。
ほんとうは彼女とお会いしてお話もと思っていたのだが、スケジュールが合わずにこの日に観にきた。
彼女は解剖学と春画との研究から独自のエロティシズムにあふれる日本画をずっと描かれてきているのだけれども、近年はその評価も高まってきている。
今回も最近の彼女の作品で特徴的な美しい「青」の色が印象的で、さらにその作品が進化されていることがうかがえた。彼女にお会いできなかったのは残念だった。
この日はまだ続きもあるのだが、どうせ明日という日は部屋にこもりきりで書くようなこともないだろうから、残りのことはまた明日の項目で書きましょう。