ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014) フレデリック・ワイズマン:製作・録音・編集・監督

 ワイズマン監督は、このロンドンのナショナル・ギャラリーを題材に作品を撮ることを、30年前から考えていたという。いざ製作ということになり、12週間をかけて170時間分の素材を撮影、それをまずは6~8ヶ月かけて編集し、その段階で初めて全体の構想を考え、最終的な編集作業へと移行したという。撮影は基本カメラマンとワイズマンの2人で行い、ワイズマンはそのときに録音も担当したらしく、これはワイズマンの作品いつものやり方ではあるらしい。
 ちょうど撮影中に「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」も開催され(というか、その時期に合わせて撮影したのだろうが)、そういうところでも一般観客に興味を持ちやすい作品になっているのではないかと思う。映画の長さはほぼ3時間で、ワイズマンの作品ではそう長くもないのではないか?と思う。

 もちろん、ワイズマン監督らしくも、被写体であるナショナル・ギャラリーの中で何が行われているのか、そこで働く人たちはどんな仕事を行っているのか、訪れる観客はどんな人たちかということを、ナレーションもインタヴューもなく、ただひたすら外から撮ってあらわして行く。

 なのだけれどもでも、今まで観てきたワイズマン監督の作品と「ちょっと違うな」というところもわたしは感じて、それはこの作品の中で学芸員による「レクチャー」というものが何度か紹介されるのだけれども、これがそのまま観ても観客は「レクチャー」を追体験しているという感じで、ワイズマンらしい「ドキュメンタリー映画」というより、NHKあたりが放映する「教養テレビ番組」を観るような印象になってしまった。まあもちろん「絵画の見方」を教わるという気もちで、ずいぶんとためにはなったのだけれども、それは「ワイズマン映画」というのとはちょっとちがう気がした。

 そういう例をちょっと挙げてみると、このロンドンの「ナショナル・ギャラリー」はルーベンスのコレクションで有名で、そんなルーベンスの作品を学芸員が解説することで、「へえ~、ルーベンスってやっぱりすごいんだ!」とか思ってしまう(実はわたし、ルーベンスっていい画家のことが全然好きではなかったのだ)。
 ただ、ここで「ルーベンス作」として取り上げられた作品「サムソンとデリラ」は、実のところ「ルーベンスの作品ではないのではないか」と美術界では捉えられていて、ナショナル・ギャラリーがこの作品を「ルーベンス作」と固執するのは、「間違いを認めたくないからだ」と言われていたりするようだ。今書いたこの件は「Wikipedia」の記述によるが、この映画を観たあとでこのWikipediaを読むと、いろいろと面白いことがわかったりする。
 あと、レンブラントの作品を「X線撮影」し、そのX線映像を90度回転させると、まったく別の絵が顕われたりするのだけれども、こういうちょびっと「事件」じみた事柄もまた、ワイズマン作品っぽくはないような気もする。

 このナショナル・ギャラリー、館内で観客が作品の模写をすることも許可されているようだったし、ギャラリーの主催で一般の人のためのヌード・モデルのデッサン教室も開かれていて、日本の美術館とは違うなあと思わせられる。作品冒頭の、ピサロの絵の表面のデコボコを再現した紙を眼の不住な人たちに配り、作品の表現を伝えようとするワークショップの試みは興味深かった。
 あとはやはり作品の修復、そして「額縁」の修復などの作業が興味深かった。Wikipediaで読むと、このナショナル・ギャラリーでの作品修復には「やりすぎ」との声もあるみたいだけれども。

 ダ・ヴィンチ展の朝の開館を待って並んでいる人たちの、そのさまざまな表情や容貌を眺めているだけでも楽しい思いがするのだけれども、実はこの時代から環境保護活動団体がギャラリーや美術作品を攻撃の標的にしていることもわかった。
 「そうか、あの作品はこのロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されていたのか」などということもわかったりした。所蔵作品は基本、「印象派」以前の作品になるから、イギリスとしてはやっぱり、ターナーの作品をクロースアップしたいのだなあ、とか。