ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『左利きの女』(1978) ロビー・ミューラー:撮影 ペーター・ハントケ:脚本・監督

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 映画冒頭の、この作品レストア時に付加されたらしいテキストによると、この作品は1976年に発表されたぺーター・ハントケ自身の小説をもとにしており、1977年の3月から4月にかけ、フランスのパリ近郊のクラマールのハントケ自身の家を中心に撮影されたという。ペーター・ハントケにとっては1971年の「The Chronicle of Current Events」に続いて、彼2本目の長編映画だったということ。

 映画は郊外を走る列車→車窓風景→駅のホームを通り過ぎる列車→クラマールの街の風景→マリアンネ(エディット・クレヴァー)の家の外観→マリアンネと十歳ぐらいの息子のシュテファンのいる家の中、と移動していき、外から来た観客がマリアンネの家を訪れるような感覚になる。
 時は3月。マリアンネは、長く北欧に仕事で行っていて帰ってくる夫のブルーノ(ブルーノ・ガンツ)を迎えに空港へ行き、いっしょに車で帰ってくる。車内でブルーノは「長く一人でいて、かえって家族のきずなを強く感じた」と言い、「すると逆に、君なしでも生きられることを試したくなった」と言う。
 その夜、夫婦は街のホテルに宿泊し、翌朝帰宅するとき、そこで初めてマリアンネは口を開く。「啓示を受けたの。あなたがわたしをおいて行く。行ってちょうだい。わたしを一人にして」と。
 ブルーノはそこで「コーヒーを飲みに行く」と別れ、マリアンネとシュテファンだけの生活が始まる。マリアンネがシュテファンを学校に送って行くと、教師のフランチェスカはすでにブルーノからの電話で、マリアンネがブルーノと別れることを知っているのだった。フランチェスカとマリアンネは仲がいいようだ。シュテファンには仲がいいフィリップというクラスメートがいて、いつもマリアンネの前で悪ふざけをしている。
 マリアンネはむかしの仕事の縁で翻訳の仕事をやることになり、当時の上司(ベルンハルト・ヴィッキ)が家を訪ねてきたりする。ブルーノもまた、ちょくちょくマリアンネの家を訪ねてくる。フランチェスカはマリアンネにブルーノとの復縁をすすめるが、彼女自身も教師という仕事での悩みも抱えているようだ。フランチェスカはマリアンネの父に連絡を取り、マリアンネの父(ベルンハルト・ミネッティ)がマリアンネに会いに来る。マリアンネの服の破れを目にして、自分で繕ってあげるというユニーク(?)な人物。マリアンネは父と散歩に出かける。帰りに2人でスーパーマーケットに立ち寄り、そこで仕事がないという俳優(リュディガー・フォーグラー)と出会う。

 いつも、マリアンネがクラマールの街を徘徊する姿が印象に残る。そしていつも、列車が通り抜ける音が映画に響く。
 もちろん、ロビー・ミューラーの撮影がすばらしく、おそらくは監督のペーター・ハントケと場面ごとに綿密なディスカッションをしながら、撮影ロケーションを決定したのだろうと思う。風景を映しただけのショットがいっぱいある(もちろん、こういったことはどんな映画でもディスカッションされることだろうけれども)。

 シリアスといえばシリアスな作品だけれども、シュテファンとフィリップとの「おふざけ」もあるし、決して重たい作品ではないと思った。ネットではこの作品をシャンタル・アケルマンの作品と比する意見も見られたが、なるほど、わたしも「思いっきり女性(フェミニズム)映画」だとして、その意見に賛成する。というかわたしはこの作品が好きで、「心に残る作品」としてときどき観返してみたいものだと思っている。こうやってヴィム・ヴェンダース作品を観続けたおかげでこの作品にめぐり合い、とてもラッキーだったという気もちだ(こういっちゃなんだが、ヴィム・ヴェンダースの映画よりずっといいんじゃないか、と思ったのだった。わたしの琴線に触れた、というところだろうか)。

 さいしょの方で、マリアンネとブルーノが共に行ったホテルのレストランの給仕が「見たことのある人だな」と思ったら、いろんな名作に出演しているマイケル・ロンズデールだった。それからさいしょのクレジットで「友情出演:ジェラール・ドパルデュー」とあったが、彼は駅のホームの場面でベンチに座っているだけで、セリフもない、とても短い出演なのだった。