ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『青空娘』(1957)増村保造:監督

 増村保造監督は、わたしが観た限りでは、溝口健二監督の『楊貴妃』と『赤線地帯』で助監督をつとめている。
 溝口監督の没後、1957年に『くちづけ』で監督デビューされたが、この監督第二作『青空娘』で『赤線地帯』に出演していた若尾文子を主役に起用、また、『くちづけ』につづいて脚本に白坂依志夫が起用され、以後増村氏と白坂氏とは多くの作品でタッグを組むことになる。若尾文子も、増村監督とは10本以上の作品で組むことにはなるのだった。

 原作は源氏鶏太が雑誌「明星」に連載し、この1957年に単行本化された小説で、今でも「ちくま文庫」で入手可。

 ヒロインの小野有子(若尾文子)は伊豆の町でおばあさんに育てられていたが、高校を卒業したら東京の父(信欣三)と母(沢村貞子)のもとへ行くことになっていた。卒業して東京へ行く前におばあさんが倒れ、病床で「あなたの本当のお母さんは別にいる」ということを聞く。有子がひそかにあこがれる先生の二見(菅原謙二)に、「いつも青空を忘れないように」と励まされるが。
 東京の小野家では父は出張中で、母(義母であることがわかったが)やきょうだいに邪険にされ、階段の下の狭い部屋を与えられて女中のように扱われる。有子に味方してくれるのは、女中の八重(ミヤコ蝶々)だけだったが、次男の弘志とは力ずくのけんかをしたあと、急に仲良くなった。長女の照子は結婚相手を探すのに夢中で、家で候補者の男らを集めてのパーティーを開くのだが、卓球ゲームで照子の本命の広岡(川崎敬三)に勝ち、広岡は有子に惹かれるのだった。
 家に戻った父は有子に優しくするが、有子は父に本当の母のことを聞く。その母は父の会社の事務員だった女性で、今も東京のどこかにいるはずだった。
 東京に出てきた先生の二見や広岡の助けを借りて、有子は母親を何としても探し出すことにするのだった。

 さてこのストーリー、どうやら童話の「シンデレラ」の話をなぞっている。義母やきょうだいに邪険にされ、女中のような生活をするというのも「そのまんま」だが、この映画では「シンデレラ」の王子様の代わりに父親がその役を果たすようだ(まさか父親と結ばれるというのではないが)。
 父親の会社から有子を迎えに車がやってくるのは「かぼちゃの馬車」なわけだし、その夜に父とディナーに出かけた有子は美しい服と靴を買ってもらう。これはその夜の舞踏会のための装いではあったし、楽団の入ったレストランでの夕食のあと、有子は父とフロアーで踊るのであった(ちなみに、このときの靴は「シンデレラ」のように、でもちょっと違うかたちでもういちど出てくる)。

 題材はシリアスに演出すればいくらでも重たくなるだろうが、増村監督の演出はあくまで明るくも軽快である。その助けになったのが、小野家での女中役で出演のミヤコ蝶々であろう。本来コメディエンヌで漫才師だった彼女は当時相当の人気もあり、この映画ではその漫才の相方の南都雄二も、小野家出入りの魚屋の役で共演している。
 この「明るさ」は、有子が後半で働こうとするジャズ・バーのマダムの陽気さに引き継がれている。
 そしてもちろん、若尾文子のキャラクターこそが映画のカラーを際立たせているわけだ(余計なことだけれども、この頃の彼女は「スキっ歯」だったので驚いたけれども、このあとに治療整形したのだな)。

 そのように、全体に演出も快調なのだけれども、わたしは有子が父親と銀座でディナーして二人のダンスで終わるシーンが好きで、このシーンはまるで銀座がニューヨークの街並みのように演出されていて、まるでハリウッド製のロマンス映画のようだった(父娘だから「ロマンス」にはならないが)。

 この映画はこの映画で、50年代日本映画の「豊かさ」を示すもの、だったのではないかと思う。