ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『リング』(1998) 鈴木光司:原作 高橋洋:脚本 中田秀夫:監督

 日本のみならず海外でも大ヒットして、いわゆる「ジャパニーズ・ホラー」ブームの発端にもなった作品だけれども、原作はそこまでにベストセラーになっていたわけでもない。
 興味深いのはこのとき、日本ではほぼ同時期にこの『リング』と、同じく海外でも評価された黒沢清監督の『CURE』とが公開されていたこと(『リング』は1998年1月31日公開、『CURE』は1997年12月27日公開)。

 まさにこの2本の作品が海外で「ジャパニーズ・ホラー」と評価されたのだけれども、この日『リング』を観てみると、2本の作品に共通点もあったことに気づいた。
 『CURE』においては、過去にメスマーの催眠術治療を研究していた人物の存在が現在の不可解な事件を解くキーとなり、古いモノクロの映像が参照されたりもしたのだが、この『リング』では現在の「呪い」の源泉は過去の超能力研究であるとされ、その「呪いのヴィデオ」にはやはり古いモノクロの映像(特に貞子の母の志津子が鏡の前で髪をとかす場面)が出てくる。両作品におけるこの「過去のモノクロ映像」というのがまさに「映画的」に生かされ、この2本の「新しいホラー映画」を特徴づけることにもなっていたと、わたしは思う。

 このことの背後には、この『リング』の脚本を書いた高橋洋の存在があるだろうとわたしは考えるのだが、この時期Vシネマを連続して撮っていた黒沢清はやはり高橋洋の脚本で撮った作品も2本ほどあったし、『CURE』の脚本を書いていた黒沢清は、高橋洋から進行中の『リング』の話を聞いてはいたことだろう(だから「模倣した」などというつもりはまったくないが)。
 このことでもうひとつ興味深いのは、『リング』の中で真田広之は大学の非常勤講師という設定らしいのだが、そこで物理数学を教えているのではないかと思えるシーンがあった(黒板に物理数学の計算式を書いていたのだ)。
 これは黒沢清のVシネ『蛇の道』(もちろん脚本は高橋洋)の中で、主人公の哀川翔が塾で物理数学を教えていたことに呼応している。
 その他にも、この『リング』と黒沢清作品で共通するポイントもあるように思うが、とりあえず以上の点を。

 さて、この『リング』をしっかり観てみると、単なる「怖い、怖い」の「ホラー」であるより、「サスペンス・ミステリー」要素の強い作品なのだなあと思った。ヒロインの浅川玲子(松嶋菜々子)は、「呪いのヴィデオ」を見てしまったせいで親族の少女が不可解な死を遂げたことから、その「呪いのヴィデオ」とは何か?ということを探偵のように探っていく。その過程で自分も「呪いのヴィデオ」を見てしまい、以降元の夫の竜司(真田広之)の助けを借り、共にヴィデオの謎を探ることになる。ここで竜司が霊感が強いというか超能力を持っているというか、関係者を突きとめてその人物に触れると、その人物が隠していた過去が透視できるのである。この「透視」というのが、ひとつにこの映画の成功の要因というか、妙に説明を労さずとも瞬間に、ヴィジュアルとして観客に「謎の答え」を提示することができるわけだ。おかげで作品の尺数も「95分」とコンパクトにまとめ、密度の濃い作品になった。

 あと、映画に登場する「部屋」というものが、その「陰」に何か潜んでいるのではないかと不穏な空気を漂わせていて(じっさいに何か異物が見えたシーンがあったみたいな気がする)、特に竜司の住むアパートの古めかしい感じ、問題のテレビの置かれた部屋の畳敷きなど、ある面で過去の日本の「怪談映画」の伝統を継承していたのではないか、とも思う。

 あとやはり、その「呪いのヴィデオ」、とりわけ貞子の登場シーンの演出の見事さ、これこそがこの映画大ヒットの理由ではあっただろう。それで、わかっていてもその「貞子がテレビから出てくる場面」では戦慄したよ。
 この映画の製作者は映画館でこの映画を観て、その貞子のシーンで男性観客が「うわぁ!」と叫ぶのを聞いて、映画の成功を確信したのだという。
 しかし、中谷美紀竹内結子も出演していたということ、まるで知らなかった(中谷美紀の出番はほんとうに短いのだけれども、オープニングクレジットでは松嶋菜々子真田広之と並んで3人が冒頭にその名前が出て、「主役級」なのかと思ってしまった)。