ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ダイヤルMを廻せ!』(1954) アルフレッド・ヒッチコック:監督

 ヒッチコックはこの作品にとりかかる前に、まだ残っていた「トランスアトランティック・ピクチャーズ」の製作として『ブランブル・ブッシュ』という作品を映画化する計画を立てていたが、脚本と予算に問題があって、ヒッチコックと「トランスアトランティック・ピクチャーズ」の相棒のシドニーバーンスタインは、パートナーシップを解消することに決めた。
 けっきょく、「トランスアトランティック・ピクチャーズ」は前作の『私は告白する』の製作を途中でワーナー・ブラザースに譲っているから、『ロープ』と『山羊座のもとに』の2本の製作でその活動をストップさせてしまった。

 この『ダイヤルMを廻せ!』は当時流行していた3D映画として製作されたが、公開時に3D映画の流行も終わりかけていて、最初の4回の3D上映での不評を受けて、以後通常の上映に切り替えたのだという(だいたい、アクション・アドヴェンチャー映画でもないのに3D映画にしようとした意図がわからないのだが)。
 映画の原作はフレデリック・ノットによる舞台劇で、1952年6月にロンドンで初演され、同じ年の10月にはニューヨークでも上演されて大成功したもの。フレデリック・ノットは、この映画版の脚本も担当した。

 主演はレイ・ミランドグレース・ケリーで、どちらもヒッチコック作品には初の出演だった。あと、『逃走迷路』での主役だったロバート・カミングスも出ている。
 レイ・ミランドは「ジェントルマンの悪役」という感じがさまになっていたが、いつもわたしはこの俳優さんを見ると「ジェームズ・スチュワートの悪役版」って思ってしまうのだが、意外とこの人の出演作はコレと『失われた週末』しか知らない。
 グレース・ケリーは、「実は夫を愛していないの」という演技、事件の展開に「どういうことなの? わたしが疑われているの?」という戸惑いを抑えた演技が上質で、以後ヒッチコックは彼女を『裏窓』と『泥棒成金』でも主演させる。

 この映画は「いかにも舞台劇」という脚本で、ほとんどがウェンディス家の居間だけで進行する。ヒッチコックはやろうと思えばこの劇を1室だけに限定して撮ることも出来ただろうと思うし、逆にこの家の外の撮影では「無理して外の場面を入れたな」と思わせられるところもある。
 ストーリー展開も、山場の「殺人シーン」のアクション以外はほぼ全篇が会話劇で、特に冒頭のトニー(レイ・ミランド)が「殺し役」スワンに「妻殺し」の計画を説明するシーンはけっこう長いし、これはラストの、トニーの計画が警部とマーク(ロバート・カミングス)との話で露見して行くシーンにも言えるか。

 タイトルにもあるように、劇中で何度も「電話」というものが活用され、さいしょのトニーからマーゴ(グレース・ケリー)への電話がスワンへの「殺し」のサインだし、終盤ではこのウェンディス家の居間から、警部が電話で指示を出したり確認をしたり繰り返すわけだ。

 今観ると、さいごの「鍵のすり替え」のトリックなども、「いかにも演劇的だな」という気もして多少しらけるが、「殺し屋」のスワンが逆にマーゴにハサミで刺されて死に、トニーの計画が破綻するかと思われたとき、トニーがそのことを言いつくろい、彼が自分のために隠したストッキングが見つかってしまったこともマーゴに不利にはたらくという展開に、トニーの悪党としての頭脳に感心もしてしまうのだった。それがこの映画のストーリーで感心したところ。

 ただ、わたしの観た感じでは、いつものヒッチコック流のギミックな演出も見られず、撮影も平板な気がした(わたしがぼんやり観たせいかもしれないが、これは3D映画としてそのためのカメラレンズを使ったせいかな?とも思う)。今までこういうサスペンスでは必ず使われた「階段」で見せるサスペンスもなかったところからも、全体にちょっと不満の募る作品ではあった。