ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『オテサーネク 妄想の子供』(2000) ヤン・シュヴァンクマイエル:製作・脚本・監督

オテサーネク [DVD]

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  • ヴェロニカ・ジルコヴァー
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 シュヴァンクマイエルである。すっかり忘れていたが、「チェコ」といえばシュヴァンクマイエルである。実はちょっとここで自慢すれば、まだ日本の映画館でシュヴァンクマイエルの作品(短篇)が上映されなかった時期(1990年代初頭)、わたしはわたしの催したイヴェント『crosstalk』において、シュヴァンクマイエルの短編作品をいくつか上映したのだった。この日本で、シュヴァンクマイエルをおおやけに上映した相当に早いケースだったことと思う(わたしのイヴェントのチラシでは、「シュワンクマイエル」と表記したが)。

 シュヴァンクマイエルには数本の長編映画もあるけれども、この『オテサーネク』は2000年の作品。妻のエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの美術・イラストと、シュヴァンクマイエル自身によるストップモーション・アニメ―ションによる、唯一無比のシュヴァンクマイエル世界。彼は自ら「シュルレアリスト」を名乗り、その作品で人間の「非合理性」を追求して「多数派」を攻撃、作品にはけっこうヤバい表現が頻出する。

 この『オテサーネク』の原典はチェコの民話の「オテサーネク」で、その民話自体もこの作品の中でシュヴァンクマイエロヴァーによる絵画で紹介されている。とにかくは「超」ダーク・ファンタジーではある。
 子供を欲しがっていたホラーク夫妻、新しく購入した別荘の庭で、夫が「人の形」をしていると見えなくもない木の根っこを掘り起こし、夫は妻に「ほら、子供だよ」ととプレゼントするのだが、妻はその「木の根」を「赤ちゃん」と思い込み、溺愛する。
 その「木の根」を「赤ちゃん」と周囲に納得させるため、月ごとに大きくなるクッションを9個準備してお腹にあてがい、毎月取り換えて「妊娠」を装う。
 ちょっと早産したことを装い、妻は乳母車に「木の根」を寝かせて乳児用品を買いに行ったりする。夫は「これはヤバい」とは思っているのだが、けっきょく妻の言いなりになる。ただ、夫妻の住むアパートの隣人の女の子だけは「ありゃあ人間の子じゃないんじゃないか」と気づいている。
 そのうちに「木の根」は意識を持って動き出し、猛烈な食欲をみせるのである。まずは夫妻の飼っているネコを食べてしまい、そのあと郵便配達夫、訪ねて来た福祉事務所の女性なども食べてしまう。
 いくら何でも「これはヤバい」と思った夫妻は、「木の根」をアパートの地下室に閉じ込めてしまう。しかし絵本で民話「オテサーネク」を読んだ隣家の女の子は、「地下室にオテサーネクがいる!」と知る。
 夫妻の代わりにその「木の根」を育てようと思ってしまった女の子は、アパートの住民などを次々に「木の根」の「エサ」として与えるのである。

 ‥‥もちろん、「木の根」を子供として育てようとした妻も異常なのだが、そんな異常な妻をサポートする夫もおかしい(まだまだ「まとも」ではあるけれども)。それで周囲の人々、特にアパートの住民も妙な人がいて、その夫妻の隣家の娘に出会うたびに「欲情」する、ペドフォビアの老人もヤバいし、まだローティーンだろうというのに異様にセックスのことに関心を持ち、両親に隠れてそ~んな本ばかり読んでいる隣家の娘こそヤバいかもしれない。そういう風に言ったら、この映画の演出家のシュヴァンクマイエルこそが「いちばんヤバい」のではないか?とも思える。
 その隣家の娘の短いスカートから覗くパンティを写し、そのパンティに欲情するペドフォビア老人の股間を写すカメラこそヤバい。これがハリウッド映画なら、監督のシュヴァンクマイエルは国外追放され、もう二度と映画を撮れないことだろう。

 最後にはアパートの管理人のおばさんが地下室にいる「木の根」の存在を知り、「鍬(くわ)」を持って「木の根」を退治しようと地下室に入ろうとするのだが、女の子は「ダメよ!殺さないで!寂しがり屋でかわいそうな子なのよ!」とかばうのだった。
 なんか全然関係ないだろうが、あの『ゴジラ』でゴジラを生み出したスタッフの人は、ラストにオキシジェン・デストロイヤーで死んで行くゴジラをスクリーンで見て号泣したというけれども、わたしもこの『オテサーネク』で、そのラストの女の子のセリフで一気に「木の根の子」が哀れに、かわいそうに思えてしまった。