ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『悪魔の植物人間』(1974) ジャック・カーディフ:監督

 タイトルが美味しいですね! 「植物人間」というと、ただ生命を維持しているだけの「意識のない」人のことを言うのが一般的だと思うのだけれども、この映画ではまさに「植物」と「人間」のハイブリッド。これはマッド・サイエンティストの研究する「光合成だけで食糧のいらない動物」なのだが、その一方で見世物小屋の「フリーク・ショウ」に出演するフリークスたちのドラマでもある。原題は「The Mutations」で、まさに「突然変異」の意。

 実はこの映画、マイケル・パウエルらが撮った『黒水仙』の撮影を担当してアカデミー賞を受賞したジャック・カーディフの監督した作品で、彼はこの『悪魔の植物人間』の前には1968年に、アラン・ドロンとマリアンヌ・フェイスフルの出演した『あの胸にもういちど』を監督しているのであるが、映画監督の仕事は1970年代でおしまいにして、以降は撮影監督に戻ってかなり長いあいだ活躍されている。

 マッド・サイエンティストの博士を演じているのはドナルド・プレザンスで、大学で生物学の講義も行っている。博士は人間の実験台が必要で、助手のリンチという男に自分の教え子を誘拐させている。リンチは実は見世物小屋の奇形人間らとも知り合いの、顔が醜く歪んだ奇形なのだが、教授が「おまえの奇形もわたしの研究で治せるのだ」という言葉を信じて、教授の手助けをしているわけである。

 実のところこの映画、そういう人間と植物との合成体も登場するけれども、それよりも町の見世物小屋(といってもかなり大きな規模である)で客に自分を見せている「フリークス」もまた主役格であり、これは監督自身が昔から、トッド・ブラウニング監督の『フリークス』の大ファンであったことから来ているらしく、じっさいにこの映画に出て来る「小人」らは、現実のフリークスではあった。
 ただわたしは、リンチを演じる俳優の顔が醜く歪んでいることから、この俳優もじっさいにああいう顔をしていたのだろうかと思ったが、こちらはどうやら「特殊メイク」だったようだ。

 映画はさすがに名作の撮影をやってこられた監督らしくも、そつのない演出ぶりではあるし、まあ「植物人間」の特殊メイクは「イマイチ」なところもあるけれども、物語展開の手さばきはしっかりしたものがあったし、後半の、夜の「見世物小屋」の人工ライティングも雰囲気があったし、川べりでその「植物人間」が酔っ払いを襲うシーンなど、この映画でも白眉の恐怖演出ではなかったかと思う。

 その肝心の「植物人間」の全貌がなかなか姿をあらわさなくって、じらされる思いもするのだけれども、いちおうラストにはその姿も全開で、マッド・サイエンティストを餌食にしてしまう。さらにここで「お約束」的に教授の邸宅が大火災になり、う~ん、イギリス映画の伝統だねえ、という感じではあった。エンディングも「多分そうなるだろう」と思った通りのオチで、「想像通り」だったとはいえ、ゾワッとしたのだった。
 わたしの感覚としては、意外と「掘り出し物」だった、という感じではあった。