ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『スパークス・ブラザーズ』(2021) エドガー・ライト:監督

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「お二人は、いつ出会われたのですか?」
「‥‥だから、兄弟だっちゅーの!」
 な~んていう楽しいやり取りから始まる映画、実にテンポよく、アニメーションや過去の映像を駆使し、そしていろんなミュージシャンやファンら(その中にはエドガー・ライト監督の姿も)の「証言」をはさみながら、50年を超えるこのバンドの歴史を実に手際よく追って行く。情報量としては相当なものである。しかしそもそも、エドガー・ライト監督は「どうせ観客はスパークスのことなんか知らないだろう!」という前提から作っているというか、それが「マニアック」な方向に向かうのではなく、「スパークスを知らない人にもスパークスの魅力を伝えるのさ!」という「基本中の基本」のことでこの映画をつくっているわけで、そのことにめっちゃ共感してしまう。「さすがにエドガー・ライト監督だ!」とは思ってしまう。

 わたしがまがりなりにも聴いていたスパークスの音源は、サードアルバムの「Kimono My House」っきりだったのだけれども、そんな「聴いたことないからわからないんですけど!」などと思う余裕もなくたたみかけて来られ、ただただ圧倒された思いがある。
 でもそんな中でも、彼らがトッド・ラングレン、トニー・ヴィスコンティ、そしてジョルジオ・モロダーという「大物」プロデューサーと仕事をしていた、というのにはおどろかされたが。

 アメリカのウェストコースト出身のバンドながらもまずはイギリスでブレイクし、クラフトワークよりも先にシンセを駆使して「エレクトロニック・ポップ」をやってのけ、その後にはフランスでナンバーワン・ヒットを出したりする。そのライヴは「マーク・ボランチャップリンといっしょにやっている」な~んて言われるのだ(MVやステージでの、お兄さんのロン・メイルの「無表情」ぶりには笑わせられるが)。

 しかし特にお兄さんのロンは映画フリークで、ゴダールのファンだったりするし、近年には「The Seduction of Ingmar Bergman」などというアルバムもリリースしているわけだ。過去にはジャック・タチと映画をつくるという話もあったらしいし(!)、そのあとには日本のマンガ『舞』(作画は池上遼一)の映画化を熱望し、監督はティム・バートンということでかなり話は進行していたという(おかげで、スパークスにとっては長い音楽的ブランクになってしまったようだが)。
 それでこの映画では言及されていないが、今日本でも公開されているレオス・カラックスの新作『アネット』の原案はスパークスによるもので、映画での音楽もスパークスが担当しているのだという。
 このことは知らなかったが「びっくり」で、わたしとしてもレオス・カラックスの映画にはいつも刺激を受けて来ただけに、次の映画鑑賞はその『アネット』にしようと思うのだった。

 映画の中で2018年の「日本公演」の様子もインサートされ、そのコンサートオフの合い間に兄弟二人が葛飾柴又を歩く姿も見られたのだけれども、これは実はお兄さんのロンが『男はつらいよ』の大ファンなのだということで、その「聖地詣で」ということで柴又を訪れたらしい。

 デビュー50年を超える「スパークス」、ここに来て、この映画のおかげで「大ブレイク」してしまうなどということもあるのでは?とは思ってしまうのだった。

 とにかくは、類型的な「バンドの歴史」をたどるという演出を飛び抜け、そんなスパークスの「現在形の活動」とリンクした、まさに「現在進行中」のドキュメンタリーという印象を受けた。とっても楽しい作品だったし、「また、もう一度観てみたい」という気もちも強いのだ。

 さすがにエドガー・ライト監督ではあるし、さすがに「スパークス」ではないか、という映画だった。