ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017) 沼田まほかる:原作 白石和彌:監督

 主演は蒼井優阿部サダヲで、特にこの作品での蒼井優の、ダメダメっぷり、最低女の演技が心に残り、そんな蒼井優にどこまでも執着する阿部サダヲが、蒼井優の演技を裏付けてみせてこれも秀逸。さらに竹野内豊松坂桃李の「腐れっぷり」が蒼井優の「劣化」を加速させる。そういう意味で、普通に「マトモな人間」は誰一人登場しない映画だと思う。
 途中に登場する刑事ぐらいはマトモかというと、コレもどこかおかしいというか、この刑事、蒼井優のところに「あなたが昔つきあっていた男(竹野内豊)、5年前から行方不明なんですよね~」と言いに来るんだけれども、コレが出て行くときに帰って来た阿部サダヲと鉢合わせして、「いや、実は彼女が昔つきあっていた男のことで聞きに来たんですよ」な~んてのたまう。これ、普通ならば蒼井優阿部サダヲの関係に余計な波紋を持ち込んでるわけで、警察官としてあるまじき行為なわけだけれども、どうもこの刑事は竹野内豊の行方不明の件はけっこう確信に近いところまで解明してるんじゃないのか、それでわざと阿部サダヲにも話をしてるんじゃないかと思える(そもそも、蒼井優にこ~んな話をしに来るところからして怪しい)。ひょっとしたら竹野内豊失踪の件で蒼井優阿部サダヲが妙な動きをみせるのではないかと期待しているようだ。
 あと、実は竹野内豊と結婚してしまった女がいて、蒼井優竹野内豊が失踪したと刑事に聞いて彼女を尋ねて行くのだけれども、そこに実は蒼井優と問題アリアリだった叔父の男がやって来て、それに合わせるように元妻は子どもを連れて買い物に出かけ、部屋には蒼井優とその叔父と二人っきりになるわけで、こりゃあ元妻は二人の経緯を知っていて、わざと二人っきりに置いて行ったとしか思えなくって、これはもう「地獄」である。
 いちおう、「この人物だけはマトモじゃないのか」と思えたのは、蒼井優の姉、だけだったように思える。

 観ていれば、そりゃあ竹野内豊の失踪には阿部サダヲが深く関わっていると想像がつくのだけれども、それには想像以上にウラがあって、阿部サダヲ蒼井優に「おまえを幸せにできるのはオレだけ」という言葉を裏付けるのだったが、なんかこういうストーリー展開の映画というのは過去に観たことがあったような気がする。それが何という映画だったかは思い出せないが。

 ラストに、阿部サダヲ蒼井優にさいごの言葉をかけたあと(ちょっとネタバレ?)、とつぜんに展開は逆戻りして阿部サダヲ蒼井優と知り合うところから「おさらい」するわけで、わたしはこの「おさらい」は不要だと思った。
 けっこう「答え合わせ」的な展開ではあったし、なければなかったで納得出来たわけだし、そもそも阿部サダヲ蒼井優と知り合ったとしても、そのあとになぜ、あ~んなダサい阿部サダヲ蒼井優が「ま、いいか?」って付き合うようになったのか、というのがこのストーリーの「最大」の謎なのであって、こうやってラストに「おまけ」的に「答え合わせ」をやってくれても、そもそもの「答え」は出ていないと思う。それがある意味、この映画の最大の「弱点」ではないかと思えてしまう。そういうところでは、ラストに突然時間を逆行させてみせた演出は、わたしにはまったく「無意味」に思えたのだった。

 しかし、蒼井優はこの「クソ女」をまさに熱演していたし、松坂桃李も「エロ仕掛け」の「ウソ男」をしっかり演じて、蒼井優を盛り立てていたと思う。わたし的には阿部サダヲも良かったけれども、けっきょく「イイ男」だった、というのではなく、彼はもっとエグい、キモい演技も出来ただろうと思う。