ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『エレファント』(2003) ガス・ヴァン・サント:脚本・監督

 1999年4月に起きた「コロンバイン高校銃乱射事件」をテーマにして撮られた映画ではあるけれども、これはその「事件」を再現する映画ではない。だからいろいろな点で「コロンバイン高校銃乱射事件」とは異なっているのだけれども、「2人の高校生が自分の通学する高校で多くの学生、教師に発砲した」ということは事件通りであるし、学内でそれまで犯人が「いじめ」の対象だったということも、この映画でも描かれている。

 映画はじっさいの高校生によって演じられ、彼ら彼女らのじっさいの名前で出演しているという。そのあたり、現実の事件とは無関係に、そんな出演した高校生らの「実生活」がこの映画にも活かされているという。
 基本的に映画に登場する生徒たちは画面に名前が出されて、その行動をカメラが追う。すぐに「事件」が起きるわけではなく、幾人もの生徒らが、同じ時間に同じ場所で行き合う場面もとらえられていて、これはそういう風に言えば、先日観たキューブリック監督の『現金に体を張れ』でとられた手法ではある。
 ただこの映画では、「事件に巻き込まれた生徒ら」と、「事件を起こした生徒(2人)」とがいて、つまり「事件に巻き込まれた生徒ら」は、あくまで普段、日常の生活をやっているだけではある。そんな中で特に、この映画でさいしょに登場するジョンが廊下を歩いていて、そこに行き交う生徒たちの写真を撮影しているイーライと出会い、イーライがジョンに「写真を撮らせてくれ」と言ってカメラを向ける場面、その後ろを、この子もちょっと「いじめられっ子」気味なミシェルが走り抜けて行くという場面は、何度も繰り返されて映されることになる。

 映画は何らのメッセージを語ったり、演出でそういうモラルを見せるわけでもなく、そのショッキングな描写に比して淡々と進行して行く。それはまるで「この(ごく普通の)高校生の一日」をドキュメント撮影していたら、偶然にもこういう「大事件」に遭遇してしまった、という風でもある。

 「実行犯」はアレックスとエリックの2人で、前半にはアレックスが授業中にモノを投げつけられるシーンもあり、そういうことが「事件」の背景にあるのかとは思わされる。
 アレックスが自宅でピアノで「エリーゼのために」を弾いているところにエリックがやって来て、「いい曲だな」と言うのだけれども、そのことはエリックが「エリーゼのために」を知らないことを想像させ、それが「決行日」にアレックスがエリックをも撃つことの「動機」なのかもしれない。