原著は1934年にドイツで出版された本だが、日本でも戦時中に翻訳出版されたものを読んだと、翻訳者の日高氏は「あとがき」に書いている。
この本は<環世界>(Umwelt)ということばをキーワードに、それぞれの動物種たちがいかに自分のまわりの世界を認識し、そのことがその行動にどのような影響を与えるかを説いた、平易な生物科学書。
例えば同じ「人の住む室内」でも、人の見る「室内」と犬の見る「室内」、さらにはハエの見る「室内」とはそれぞれまったく異なっているのだ。<環世界>とは、それぞれの生き物に外部刺激として呼びおこされた「知覚記号」の産物と考えられるけれども、同じ人間であっても、合理的知識を身につけた人間とそうではない人間とでは「世界」は異なる様相を示す。後者を著者は「魔術的環世界」と呼ぶのだけれども、これは人間だけでなく、多くの動物でもその行動に観察されるものだという。
この本で読み取れることは、「客観的な事実」こそが科学的に絶対視されるものではなく、<環世界>によって見られる「主観的」な世界にこそ、重要な鍵があるだろうということ。
わたしはこの本を大変面白く読み、例えば「グリム童話」のような世界(というか「文学世界」と言ってもいいだろうけれども)に「魔術的環世界」を読み取れるのではないだろうかと思いもする。そのあたりの風景を眺める目も変わってくるようだ。
あと、この本には多くの挿画が掲載され、それらの挿画がそれぞれになかなかにユニークというか、そういうところにも「ドイツらしさ」が見て取れるというか、視覚的にも楽しませてもらった本だった。