現時点でのノルシュテインの最高傑作*1というにとどまらず、「アニメーション映画」というもののたどり着いた至高の作品、ともいえるのではないかと思う。
「アニメーション」というにとどまらず、「映像」というものがどれだけ「詩的表現」になりうるか、という最上の答えがここにあるのではないかと思う。
明瞭な輪郭線を用いずに、水彩画的タッチのやわらかい画像と、茶色のペン画風(?)のモノクロームのアニメーション、そんなメルヘンチックな世界は一転して廃墟のような街に移行し、タンゴを踊る男女の、その男だけがだんだんに姿を消していく。男たちは戦場に送られたわけで、その「死亡通知」が残された女たちのもとに届く。
物語は、赤ちゃんにおっぱいをふくませながらお母さんが子守歌を歌うシーンから始まり、その子守歌は「寝ないと灰色オオカミの子がやって来て、森へ連れて行っちゃうよ」というような歌なのだけれども、どうやらその「灰色オオカミの子」らしいのが登場し、以後狂言回し的に作品全体に登場する。終盤に灰色オオカミの子は、詩人らしき男の机の上からまだ何も書かれていない原稿の紙を丸めて取っていくのだけれども、取って逃げていくといつの間にかその紙は赤ちゃんになってしまう。
それこそ全篇が「詩」のような美しい作品なのだけれども、わたしはいつも、モノクロームの世界で少女といっしょに縄跳びをやっている、どこか悲しげな牛に心惹かれるし、空を泳ぐ魚も美しい。主人公と言ってもいい「灰色オオカミの子」のつぶらな瞳はいつまでも心に残るわけで、この作品は何回も何回も観て、その蠱惑的な映像の隅々まで記憶にとどめておきたいと、いつも思う。