ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ライトハウス』ロバート・エガース:監督

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 わたしとしては、まずは近年傍役ばかりであまりフィーチャーされないウィレム・デフォーがたっぷりと拝める、という気分で観ることを選んだ作品。
 監督はロバート・エガースという人で、2015年に『ウィッチ』という作品で監督デビュー。この作品が2作目だということ。出演はほとんど二人っきりで、それがウィレム・デフォーと、もうひとりロバート・パティンソン。この二人が、絶海の孤島にそびえる灯台で一ヶ月の共同生活をし、灯台の保守管理を行うと。
 どうやら年配のウィレム・デフォーはこの前にも灯台での仕事の経験があるようで、ロバート・パティンソンにあれこれと指示を出す。ウィレム・デフォーは最上部の「灯室」の仕事は自分の領分としてロバートを上げさせない。また、「決して海鳥を殺めてはいけない」とも。ウィレムは夜にはさんざん酒を飲むのだが、ロバートは決して酒を飲もうとはしない。

 男二人きりの「共同生活」だから、互いの軋轢は蓄積するだろうし、それは特にロバートの側に顕著ではある。ウィレムが「海鳥を殺すな」と言ったのは、前にそのせいで人魚の幻覚を見るようになり発狂した男を知っているからだが、けっきょくロバートは海鳥を殺し、かれもまた「人魚」を見ることになる。

 ハーマン・メルヴィルの日記(『白鯨』の創作ノート?)やエドガー・ポー、そしてベケットなど多くの作品からのアイディアを詰め込み、さらにギリシア神話へのパスティーシュもうかがいみられる作品。モノクローム作品で、しかもその画面はほぼ正方形に近い(これは昔のサイレント映画にあった比率だったというが)。

 わたしには、「音楽」とも「ノイズ」ともつかない、全篇を覆うハウリング音のような音に惹かれることはあったが、さて、はっきり言って、この脚本へのさまざまな(雑多な)要素の詰め込み方には疑問があるというか、「だからどうなのよ」という感じはある。こういうやり方であればいくらでも先行する文学作品なりを引用することはできるだろうし、「ではこの映画、根本のテーマは何なのか?」というと、読み取りにくい。ただ、そのラストシーンからは完全に、あの「火を盗む」ギリシア神話のテーマが浮かび上がっては来るのだけれど。

 途中、「なんやそりゃあ?」と言いたくなるようなえげつないショットとかもあり、そこで前に観た『へレディタリー/継承』という映画を思い出しもしたのだけれども、じっさいにその監督のアリ・アスターという人とこの映画の監督のロバート・エガースとは仲がいいらしいのだ。まあ近年の映画の潮流というのはそういうところに来ている、ということかもしれないが。
 けっきょく、観終わってしまえばただ「ゴタゴタしていましたね」という印象ばかりが残り、まあ『へレディタリー/継承』と同じように、「忘れてしまおう」という映画にはなりそうだ。

 ただただ、この作品のエンド・ロールのバックに、わたしの大好きなイギリスのトラディショナル歌手A.L.Lloydの歌う「船乗り歌(Sea Shanty)」が聴こえてきたときにはほんとうにおどろいてしまい、「もう、ここでA.L.Lloydの歌唱が聴けたのだからすべて許す!」という気もちにはなってしまったのだった。
 帰宅してYouTubeで検索したら、A.L.Lloydの歌唱もいっぱいアップされていたのだけれども、その映画で使われていた曲もたやすく見つかったのだった。