ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『星の子』今村夏子:著

星の子

星の子


 この作品の語り手の林ちひろは生まれたときから病弱で、生後半年以降はいつまでも治癒しない湿疹に苦しめられていた。それを父親が会社の人から「それは<水>のせいだ」とペットボトル入りの<水>をもらって来る。その水を飲んだり身体を拭いたりしているうちに湿疹は完治する。その<水>はある新興宗教への入り口で、以後両親はその新興宗教の熱心な信者になる。その信仰ぶりは親族間でも問題になり、訪れた叔父と修羅場めいた展開にもなる。両親は法事にも呼ばれなくなるが、ちひろだけは呼ばれたりする。家族は転居を何度か繰り返すけれども、そのたびに家は狭くなるとちひろは思っている。両親の信仰をいやがっていた姉のまーちゃんは家出してしまう(このあたりとか、いろいろと『こちらあみ子』を思い出す展開)。まあ「新興宗教」とはいっても、そこまでに奇態なものではなく、他者の勧誘に熱心な「避けたい」宗教というわけでもなく、温和な印象はある。
 以降は中学3年生になったちひろの学校生活、友だちとの交流が細やかに描かれる。このあたり、来年は高校進学をひかえた級友たちとの話は「学園もの」という空気満載で実に楽しくも面白くもあり、わたしは何度か声を出して笑ってしまったのだけれども、そんな中に同じ中学に家族が同じ新興宗教の信者という子がいたり、ふとそんな両親の信仰のことがちひろの前面に浮かび上がってきたりする。
 親戚の叔父はちひろに、「高校に行くならウチの子がちょうど東京の大学に行ってしまって部屋が空くから、家を出てウチにくるといい。通学にも便利だ」と誘う。
 終盤には、その新興宗教の「総本山」だかなんだか、山の中にあるらしい「星々の郷」というところでの「研修旅行」に家族ともども参加するわけだ。

 さりげなく書かれていて、とても読みやすくもあるのだけれども、全体の語り手であるちひろの、その脳裏の深いところには両親の信仰のことがあるだろう。友人たちの中で彼女は両親の信仰のことを隠しておきたいという気もちはあるが、おそらく、その両親の信仰のきっかけが<自分>にあったことが、<負い目>というのか、引っかかるものにはなっているのではないだろうか。このあたりの構成、筆致は「うまいなあ」という感想になる。
 ラストはその「星々の郷」の野外で、親子三人が並んですわって空を見上げ、流れ星をみつけようとするところで終わる。三人がいっしょにひとつの流れ星を見たいという結末。

 やはり今村夏子らしくも、エンターテインメント性と<えぐい>展開とを同居させた、これまた見事な作品だと思った。この作品が『こちらあみ子』の<変奏曲>なのだとしたら、高校進学しておそらくちひろは家を出て、叔父の家に移ることになるのだろうか。そこまで書かないところがまたにくいのだが。そういうところで、ひたすら今村夏子の「上手さ」に感じ入る作品、という印象だった。