ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

「コンビニ人間」村田沙耶香:著

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 村田沙耶香、今年3冊目。今回は単行本とか文庫ではなく、古本屋で買った「文藝春秋」の「芥川賞発表」号で読んだ。選考委員の選評、受賞者インタビューも載っていて楽し。単行本の方は、去年の10月にミリオンセラーになったそうだ。

 「地球星人」、「しろいろの街の、その骨の体温を」と続けて読んできたわけだけれども、どの作品の主人公(ヒロイン)も、周囲の「普通」の人たちの生き方に同調できないでいるというか、はみ出している。
 この作品のヒロインの古倉さんは36歳で、18年間ずっとコンビニでアルバイトを続けている。恋愛経験なし。もちろん会社勤めの体験はない。コンビニ店員としてはもちろん超ベテランなのだけれども、妹とか周囲は「なぜ普通に勤め人にならないのか」といわれ続け、妹は周囲への言い訳に「からだが弱いから」としたら?といわれ、妹はじっさい周囲に「お姉さんはからだが弱いから」というのだが、からだが弱いのにコンビニで働くっていうのも変ではないかとも思う。そんな勤め先のコンビニに、「婚活」のためにコンビニで働き始めたという白羽という男性が来て、古倉さんの生活もガラリと変わってしまう。いや、白羽というのも相当の変人なのだが、恋愛関係になったのではないが、古倉さんは白羽を自分の部屋によび、いっしょに暮らすようになるのだ(ただし、白羽はバスルームで生活するのだが)。
 18年コンビニで働きつづける古倉さんのその生き方もユニークというか<普通ではない>のだけれども、白羽との関係も<普通ではない>。これは、先に読んだ「しろいろの街の、その骨の体温を」で、ヒロインの結佳が同級生の伊吹との関係を「おもちゃ」と捉えることを思い出すけれども、どうやら古倉さんは白羽を飼育しているつもりでいるらしく、白羽が奇矯な生活論を彼女に語っても、聞き流して「餌、食べる?」と問う。コメディー、でもある。

 ま、普通に考えれば、それだけのベテラン店員になればどこかのコンビニで「雇われ店長」になるとかの活路もありそうに思うけれども、ここでの古倉さんの生き方は例えば「ニート」だとか「引きこもり」みたいな意味合いで、比喩的な要素もあるだろう。だから読者は「彼女の生き方、どう思う?」みたいな読み方をせまられるところもある。
 ‥‥ついつい、わたしなども「それでは将来は?」みたいなことを彼女に思ってしまうのだけれども、どこか寓話的なこの小説で、そんな現実的なことを考えあわせてもしょーがない気もする。それよりも、郵便局のポストの数などよりもはるかに数多い、いたるところにある「コンビニ」のある風景の中で生きることを、ちょっとばかり考えてみるわけである。