ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『プライベート・ライアン』(1998) ヤヌス・カミンスキー:撮影 スティーヴン・スピルバーグ:監督

 1944年6月の連合軍の「ノルマンディー上陸作戦」、オマハ・ビーチでの多大な犠牲を払いながらもアメリカ軍は侵攻を続けるのだけれども、このときアメリカ本国ではこの作戦でライアンの2兄弟が死亡したことを知る。もうひとりの兄弟も先に太平洋戦線で戦死していて、つまりこのライアン家の4兄弟で生き残っていると思われるのは四男のジェームズ・ライアンだけということになった。ここで本土の参謀総長は残るジェームズ・ライアンを保護し、帰国させるようにとの指令を出すのだ。
 ま、こういうのは日本であれば「一億総玉砕」だぜ!と、何らの問題にもならなかっただろうが、そこは国民を大事にするアメリカ、ライアン家の跡継ぎがいなくなるというのは悲しむべき、憂うべき事態なのである。
 戦場に「ジェームズ・ライアンを保護せよ」との指令が届き、レンジャー隊の中隊指揮官ミラー(トム・ハンクス)がその任務にあたる。しかしジェームズ・ライアンは「最も危険な」空挺部隊員として敵地のど真ん中にパラシュート降下したようで、今では「行方不明」である。
 せっかくオマハ・ビーチからの上陸を果たし、あとはアメリカ軍トータルで侵攻すればけっこう安全だったはずのミラー隊の部下らは、わざわざ自分の命をさらすような命令に内心はめっちゃ反発する。隊員は「そのライアンはどうせろくでもない野郎だろう」と思っているのだが、いろいろな命をすり減らすような紆余曲折を経て、最前線でついにジェームズ・ライアン(マット・ディモン)にめぐり合う。
 ミラーもジェームズに「さあ、帰還しよう」と誘うのだが、そのときいっしょに戦っていた兵士を置いて「自分だけ助かるわけにはいかない!」と訴え、つまりはミラー隊はジェームズといっしょに攻撃をかけて来るドイツ軍と戦うことになるのだ。

 う~ん、どうもスピルバーグの本性が出た映画というか、この脚本でももっと「反戦」を前面に出す演出は出来ただろうと思うのだけれども、これでは大昔にテレビでやっていたドラマ『コンバット』(古い!)と、ストーリー的には違わない(もちろん、戦争シーンの演出はずっとリアルで恐ろしいのだが)。
 これは「家族の生命を第一に考える<アメリカ>という国は、ヒューマニズムを基本とした素晴らしい国だ!」というメッセージ映画で、極端にいえばブッシュ大統領だとかトランプ大統領だって、「これがアメリカだ!」と賛美するだろう。
 今はいちいち書かないが、「あのシーン」とか「このシーン」とかに、「戦争の残虐さ」「戦争の不条理さ」をもっともっと強く描ける場面はあったと思うのだが、けっきょくスピルバーグ監督は「アメリカ軍の勝利」というところに着地させてしまう。そのいちばん大きなあらわれが、ファーストシーンとラストシーンの、ジェームズ・ライアンのミラー指揮官への墓参りのシーンだろうか(何か、他の描き方はなかっただろうか)。

 映像としては強烈で、冒頭の「オマハ・ビーチ」のシーンは「そこまでやるか!」というような、血まみれのほんとうに眼を背けたくなるような残虐さ。そのあともヤヌス・カミンスキーのカメラは激しい戦闘シーン、そしてそれぞれの兵士の表情、実は美しい北フランスの風景を捉えながら、「映画」としての完成度を見せてくれる。