ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

シェーンベルク『グレの歌』大野和士:指揮 東京都管弦楽団:管弦楽 @上野・東京文化会館 大ホール

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カーテンコールのときの舞台。

 これは「東京・春・音楽祭2019」、「東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.6」という催しの最終日の演目。先に書いたように、わたしはこの『グレの歌』という曲が大好きである。シェーンベルクの音楽は、のちの無調音楽、12音音楽も好きだけれども、実は初期の「後期ロマン派」カラーの濃厚な、『浄められた夜』とか『ペレアスとメリザンド』、そしてこの『グレの歌』あたりには魂をゆすぶられる。特に『グレの歌』は楽器編成で200人近い奏者、そこに合唱で100人と、総勢300人になるかという壮大なオーケストレーションで演奏されるわけで、だからこそ「ナマ」で接してみたいと望んでいたもの。
 この曲はシェーンベルクでも人気曲というか、録音された音源も実にたくさんリリースされている。わたしが持っているのはサイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルによるもので、これをしばらくは(予習のため)毎夜のように聴いていたのだった。それで他の指揮者だとどうなのかと、図書館でクラウディオ・アバド盤とか小澤征爾盤とかを借りて聴いてみたのだけれども、一般に「これが名盤」とされているらしいアバド盤はわたしにはぜんぜんダメで、小澤征爾盤はソロ歌唱のシンガーの声(声質)が、わたしの耳にはすっごい違和感があった。
 アバド盤がわたしにダメだったのは、つまりわたしはそもそもがロックのリスナーなわけで、その中でもアヴァンギャルド的なというか、前衛チェンバー・ミュージックみたいな音が好きなわけで、そこにサイモン・ラトル盤は(ちょっと派手だけれども)合致したところはあるのだけれども、アバドのは「これって、ポップスじゃん?」みたいな感じで、「パス!」だったのだ。

 さて、この日の指揮は去年『トゥーランガリラ交響曲』を聴いたときと同じく、大野和士の指揮。『トゥーランガリラ』のときの印象から、わたしはこの方の指揮はきっと気に入るだろうと思っていた。ソロを取る歌手のことは知らないが、ただ、この『グレの歌』の最大のヤマ場といえる「山鳩の歌」を、とにかくは評判の高い、世界各国で活動されている藤村実穂子さんが歌われる。この日のわたしのモティベーションのひとつは、その藤村実穂子さんの歌唱を聴く、ということでもある。あとはその他のソロ歌手とわたしの耳との相性の問題、だろうか。

 開演。指揮者の前の譜面が異様な大きさで、これはシェーンベルクも作曲のときに「53段譜」を特注したというけど、めくるのも慣れないとたいへんなんじゃないかと思う。音は期待通りに色彩豊かな感じでめりはりもあって、わたし好みの音。ソロ歌手は、ヴァルデマル王のテノール歌手はちょっとおとなしい気もしたけれども、違和感はない。トーヴェのソプラノ歌手は感情豊かでよかった。そしてやはり、何といっても藤村実穂子さんはすばらしかった。その声量、そして表現力。惹き込まれます。
 第2部では、酒瓶をポケットに、千鳥足でやって来られた道化師のテノールの方が良かった。そう、そもそもこの『グレの歌』は、演技所作のないオペラ、という性格でもあるので、こういう「役に合わせて演じちゃう」というのも楽しい。わたしには充分に満足な演奏、ではありました。