ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『追憶の森』(2015) ガス・ヴァン・サント:監督

追憶の森 スペシャル・プライス [DVD]

追憶の森 スペシャル・プライス [DVD]

  • 発売日: 2018/03/02
  • メディア: DVD

 原題は「The Sea of Trees」。これは青木ヶ原の樹海のことで、主人公のマシュー・マコノヒーは「a perfect place to die」を求め、ネットで検索して青木ヶ原を知り、つまりは自殺するつもりである。彼はしばらく前に妻(ナオミ・ワッツ)を亡くして生きる希望を失っていた。青木ヶ原に踏み込んだ彼は、そこで男(渡辺謙)に出会う。男はやはり死ぬつもりで来ていたが気が変わり、樹海の外に出ようとしているが道がわからない。主人公はまずは彼を助け、彼を樹海の外に出してやろうとするのだが‥‥。

 むむむ、海外の観客であれば「青木ヶ原」に何の思い込みもないだろうから素直に観ることができるのかも知れないけれども(いやいや、そうでもないんじゃないかな?)、わたしなどはけっこうテレビの「潜入レポ」とかでおどろおどろしい樹海の中の様子を知っているから、どうしてもここが「a perfect place to die」とは思えない。で、映画のモードは「死への道どり」からさっさと離れて、渡辺謙を助けるサヴァイヴァル・モードに転じてしまう。
 それにしても、マシュー・マコノヒーは自分のこと、妻のことを渡辺謙にあれこれと話して涙を流すのだけれども、一方の渡辺謙のことがよくわからない。自殺しようとした動機もなんだかつまらない動機だし、妻と娘の名前は教えてくれるが、それ以上の話はしない(この妻と娘の名前が日本人の名前として不自然なので、ラストのネタバレの前にその意味がわかってしまうのが日本語を解する日本の観客のハンデだわさ)。

 だいたい観ていればとちゅうで「あれ???」となるわけで、これはヒューマン・ドラマではなくって「ファンタジー」なのだなって気がつくのだけれども、まあその観客がどの段階で「おや?」と思うかということにもよるだろうけれども、「自殺への道行き」から「サヴァイヴァル・モード」への転調と並行して、その「転調」がスムースでないというか、「それは反則だろう?」とか思うことになる。
 例えば、この二人がサヴァイヴァル行のとちゅうで発見してしまう「死体」も、つまりはマシュー・マコノヒーが助かるための「布石」であって、大きくみれば「ファンタジー」の枠内になるのだけれども、まあ思い返しても気色悪いファンタジーではあることよ。

 そのさいごの「ネタバレ」で真相がわかるっていうのは、わたしだってちょびっとは目頭が熱くなったりはしたのだけれども、まあその前に気がついてましたしね。
 これは「青木ヶ原」のことを事前に知っていたり、渡辺謙の言う妻と娘の名前の意味がわかってしまったりするところの「日本人観客」だからこそのことで、海外の観客ならばもっと素直に感動するのかいな、などと思ったら、この映画はカンヌでブーイングを浴びたらしい。そうか、海外の観客もやはりダメだったか。
 ガス・ヴァン・サント監督も、『エレファント』みたいな秀作も撮るんだけれども、なんだかどうでもいいような作品も撮ってしまう人ではないのかな。