ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ポランスキーの 欲望の館』(1972) ロマン・ポランスキー:監督

ポランスキーの欲望の館 blu-ray

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  • 発売日: 2019/04/26
  • メディア: Blu-ray

 この作品、プロデュースがあのカルロ・ポンティで、ほとんどカルロ・ポンティのイタリアの海沿いの別荘でのみ撮影されている。どうも、カルロ・ポンティポランスキーに「どうだね、わたしの別荘で自由に撮影していいから、1本映画を撮らないかね」と依頼して出来たのではないかと、そんな想像をしてしまう。というか、「みんなでウチの別荘に泊まりに来てくれ! ついでに1本映画を撮っちゃうというのはどうだね?」みたいな。いいヴァカンスだな~。

 主演はアメリカの俳優シドニーロームで、それに加えてマルチェロ・マストロヤンニ、ヒュー・グリフィス、そしてポランスキー自身も「役者」として出演している。
 「物語」というほどのものはなく、奇妙な人物ばかりがたむろする屋敷に迷い込んだシドニーロームの奮闘ぶりを描いたものというか、一種の『不思議の国のアリス』のような作品。そう思ってみると、たしかに「三月兎」(これがマストロヤンニ?)だとか「トウィードルダムとトウィードルディー」みたいな2人組も登場する。おっと、それでは『鏡の国のアリス』の方になるのか。たしかに、この映画では「鏡像」ではないけれども、「同じことが繰り返される」という宿命を負っているようだ。
 どうも綿密に練られた脚本と演出というわけでもなく、「そりゃあ即興だろう」というシーンも多い。

 ポンティ邸の壁には多くの著名美術作品が掛けられていて、それはもちろんホンモノではないだろう名画が多いのだけれども、中にはじっさいにカルロ・ポンティの所有していたホンモノも紛れ込んでいたかもしれない。おかしかったのは、この映画ではけっこう主演のシドニーロームも脱いじゃうので、下半身の「ボカシ」が欠かせない映画だったのだけれども、それが壁に掛かっていたモディリアニの裸婦像の下半身にも「ボカシ」が入れられていて、「このボカシの指示を出した人は<正気>だったろうか」と、いぶかしく思うのだった。

 あと、途中でジェリコーの『メデュース号の筏』の現物大複製が邸内に運び込まれようとするシーンがあって、おそらくはこの『メデュース号の筏』の複製こそ、この映画の中でいちばん予算のかかったものではなかったかと思うのだが、けっきょくこの複製、「大きすぎてドアから入れることができない」というだけで「ご退場」されてしまうのだ。いったい何のために登場したのかわからない。ただ、登場人物がジェリコーの絵を観て「写真よりリアルだ!」とはのたまうのだが。
 こういう感じの、「わけのわからない」ギャグというか小ネタは満載の映画で、「わたしはやっぱりヨーロッパ人の奥の奥のセンスはわからないな」ということになってしまうのだった。