ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ジョセフ・ロージー:四つの名を持つ男』(1998) 中田秀夫:製作・監督

ジョセフ・ロージー:四つの名を持つ男 [DVD]

ジョセフ・ロージー:四つの名を持つ男 [DVD]

 このDVDは、昔買った「ジョセフ・ロージーBOX」4枚組セットに入っていたもので、今まで観たことはなかった。ちなみに残り3枚はもちろんジョセフ・ロージーの監督作『できごと』『召使』『銃殺』。まあこの中田秀夫のドキュメンタリーは「おまけ」みたいなもの。
 さて、先日読み終えた蓮實重彦の『ハリウッド映画史講義』で、「ジョセフ・ロージーとは何と興味深い人物であることよ」と思い、このDVDを引っぱり出して観てみたのだが、わたしはここまでにいいかげんな、中途半端な伝記的ドキュメンタリーというものを観たことがない。これはただ「酷い」のひとことに尽きる作品だ。

 ‥‥いちいち、この作品の酷さを書いていってもしょうがないと思うのだが、とにかくはひとこと、「このドキュメンタリーをみてもジョセフ・ロージーのことは何もわからない」とは書いておく。
 そもそもタイトルに「四つの名を持つ男」とあるのに、本名のジョセフ・ロージー以外にだだひとつだけの<偽名(?)>を紹介しただけ。いったいなぜそれだけの<偽名>を必要としたのかという説明もない。
 ロージーフィルモグラフィーについても、恣意的に幾本かの作品を紹介しただけで、映画監督としてのロージーの<全体像>などまるで知ることもできない。登場してくるロージーの関係者も恣意的というか、そもそもロージーの作品を語るときに欠かせない俳優のダーク・ボガードや、脚本家のハロルド・ピンター(ふたりともこのドキュメント撮影時は存命)を出演させるとか、せめてコメントは引き出すべきだったろう。
 あと、晩年にアメリカでも名誉回復なったとして、故郷でのロージーの後ろに「Losey Memorial Arch」という「門」の写っている写真が出てきて、これは観るものは誰もがその「門」はジョセフ・ロージーのために建立されたものと思い込んでしまうのだが、これは著名な弁護士・市民指導者であったジョセフ・ロージーの祖父へのオマージュとして建てられたものだということが、英語版WikipediaのJoseph Loseyの項目に出ている。ある意味で「デタラメ」ドキュメンタリーでもある。

 しかし、いったいどうしてこんな「酷い」ドキュメンタリーが撮られてしまったのか。これはもちろん監督した中田秀夫が<製作>も兼ねていたせいで、だれひとり、この作品の内容に口出しできる人物が存在しなかったのだ。
 まさに蓮實重彦の『ハリウッド映画史講義』にも、そんな監督とプロデューサーとのことも書かれていたわけだけれども、映画作品の成立にプロデューサーの存在がいかに大切な存在であることか、しかと了解させてくれるドキュメンタリーではあった。