ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ラ・ジュテ』(1962) クリス・マルケル:脚本・撮影・監督

ラ・ジュテ -HDニューマスター版- [DVD]

ラ・ジュテ -HDニューマスター版- [DVD]

  • 発売日: 2010/01/27
  • メディア: DVD

 クリス・マルケルは一般にドキュメンタリー映画の監督として知られているのかと思うが、たんじゅんにその枠に収まり切ることのないアーティストである。この『ラ・ジュテ』という作品は「フォト・ロマン」と銘打たれ、ストーリーを持つドラマ仕立てに撮影された(撮影はクリス・マルケル)多くの写真を連続させ、ひとつのSF作品に仕上げたもの。内容はこれまたディストピアっぽく、わたしはどうもこのところ、こういう世界に惹かれているのだろうか。

 撮られた写真は特にSF的なセットを組んで撮影されたわけではなく、現実のオルリー空港や博物館などでも撮影されている。そういうところ、ひょっとしたらゴダールの『アルファヴィル』の典拠にもなったのではないかと思ったりする。

 物語は近未来、第三次世界大戦によって地上は放射能に汚染され、パリも廃墟となっている。生き残った人々は地下にもぐって生活する世界で、人々は「支配層」と「奴隷層」に分かれている。
 支配層の科学者はこの時代に開発されていないエネルギー源を求め、タイムトリップの研究をしている。被験者を奴隷階級に求めるが、皆がタイムトリップという体験に耐え切れずに失敗を繰り返す。そんな中、この作品の主人公が注目される。
 彼は戦争前の少年時代、パリのオルリー空港の送迎台にいたとき、そこにいた美しい女性と、その場で少年の前で倒れて死んだ男との記憶が強烈に残っていて、精神が過去にトリップする体験に耐えられるのではないかと考えられたのだ。

 まずは「過去」へのトリップが企てられて成功し、男は過去のパリへとトリップする。そこで男は少年時代の記憶の女性、オルリー空港にいた女性とめぐりあい、トリップを中断しながらも幾度も幾度も彼女と会い、愛し合うようになる。
 実験が成功したことが確かになり、男は必要なエネルギーを持ち帰るという使命を受けて未来に送り込まれる。男は未来人を説得してエネルギーを現在世界にもたらすことに成功するが、同時に未来人の信頼を得てそのまま未来世界で暮らさないかと勧められる。しかし男はそれを断り、女の待つ過去世界へとトリップする。
 男はオルリー空港の送迎台で、女の姿を見つけて駆け寄ろうとするのだが、男の背後には男を追ってきた支配者層の暗殺者がいたのだった。
 少年時代の男が見た「倒れて死ぬ男」とは、少年の未来の姿だったのだ。

 ‥‥って、ストーリーをぜんぶ書いてしまった。まあストーリー展開だけを楽しむ映画ではないからかまわないだろう。それでもまずはストーリーが卓越しているのは確かだけれども、後にこのストーリーからテリー・ギリアムは『12モンキーズ』を撮る。『12モンキーズ』では世界は伝染病のパンデミックで絶滅に瀕していて、主人公は未来世界からワクチンを持ち帰るという使命を受けるのだ。
 そして、「動画」ではなく「静止画」の連続でストーリーを語り作品を製作するという斬新な演出が、観る人に予想以上のインパクトを与えるということで、映画表現の幅を拡張したといえるだろう。
 特に戦争前の空港の何気ない写真、女性の笑顔から戦争によって廃墟になったパリの映像への移行は見事だし、人々の逃避した地下の通路、奇妙な眼鏡姿の支配者の科学者、奴隷階級の医学実験で被験者の横たわるハンモックなど、たしかに衰退した別世界を思わせてインパクトがある。
 男と巡り会った彼女との逢瀬の写真の連続はある面でこの作品の白眉というか、ベッドに横たわる女性の映像、そして博物館の動物のはく製のあいだでデートする二人の姿など、ストーリーの流れからはみ出した映像の「美しさ」のインパクト。
 映画表現のひとつの成功した(手法としてはある意味シンプルなのだが)新しい表現として、記憶されるべき作品だと思う。