ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『手討』(1963) 田中徳三:監督

 意外と初めて観る市川雷蔵。なるほど、魅力的な俳優さんだなあと納得。
 この作品は岡本綺堂の『お菊と播磨』を八尋不二が脚色したもので、怪談の「番町皿屋敷」の怪談要素をなくした、武家の悲恋ものである。監督は先日観た『怪談雪女郎』の田中徳三

 時代は明暦2年。徳川幕府も落ち着き、世は泰平ムードではあったが、江戸幕府創立に力のあった旗本らは疎んじられているとの思いも蔓延していて、大名との対立も顕然化していた。
 あるとき、城内で加賀藩の藩主が能を舞う上覧能が催されたとき、列席していた旗本の新藤源次郎(若山富三郎)が退屈のあまり大あくびをしてしまう。舞っていた藩主は源次郎の処分(切腹)を幕府に迫った。理不尽な大藩の要求に旗本たちは反発し、旗本に理解のある大久保彦左衛門と旗本の代表として青山播磨(市川雷蔵)を通してとりなしを願い出るが不調に終わり、騒ぎとなりそうになった。このとき源次郎は「自分一人が腹を切ればすむこと」と、いさぎよく切腹の儀を受け入れるのであった。
 表向きの大名と旗本の対立は解消されたかにみえたが、旗本らのうちには不満がくすぶっていて、旗本らは白柄組というグループを結成する。播磨はグループの暴走を食い止めるのが自分の役割と、白柄組の頭領になる。
 一方、播磨は腰元のお菊と将来を約束した仲ではある。そんな中、白柄組と大名との調停のため、加賀藩の縁続きの女性と播磨との結婚を画策し、見合いの席を設ける。播磨はその縁談を蹴って途中退席するのだが、そのことを知らないお菊は播磨の心変わりと思い込み、播磨を試す気もちもあって青山家伝来の家宝の皿を割るのであった。
 戻った播磨は話を聞き、「過失であるならば許そう」とするのだが、故意であったとの目撃もあり、これを許すわけにもいかずにお菊を手討にする。さらに播磨は破談の責を取って切腹に臨むのであった。

 江戸時代初期のの旗本と大名との不和、軋轢(あつれき)を背景に身分の違う男女の恋を描き、身分差ゆえに男を信じ切れなかった女の行動は悲しいが、その心理は現代になってもわかりやすいのではないかと思う。

 ストーリーはなかなか面白いのだけれども、正直言うとこの作品、演出に問題がある。
 もっとじっくり落ち着いた演出にすればよかったと思うが、不要にカメラが動いたり人物に寄ったりと落ち着かないし、カット割りにも疑問がある。また、お菊を演じた女優はそのメイクも所作も「現代女性」っぽくもあり、そのせいでお菊の心理に現代に通じるものをみて、理解しやすかったのかもしれないが、これが江戸時代の城中の物語とは思えないところもあった。残念。